追いかける気勢を示す行為と暴行罪

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弁護士の佐藤です。

 

さて、本日も刑法に関する判例の中で、暴行罪の成否が問題となった判例をご紹介します。

 

本日の事案は、被告人が被害者に対して大声で「何をボヤ□しているのだ」等と悪口を浴せ、矢庭に拳大の瓦の破片を投げつけ、なおも「殺すぞ」等と怒鳴りながら側にあつた鍬を振りあげて追いかける気勢を示したので、被害者がこれに驚いて難を避けようとして夢中で逃げ出し、約20間走り続けるうち過つて鉄棒に躓いて転倒し、打撲傷を負うた場合に、右傷害の結果は被告人の暴行によつて生じたものといえるかというものです。

 

この点、最高裁昭和29年8月20日判決は、まず、前提として、

 

傷害罪が成立するためには、傷害の故意が必要かにつき、

 

「原判決挙示の証拠を綜合すれば原判決の認定を肯認することができる。そして傷害罪は結果犯であるから、その成立には傷害の原因たる暴行についての意思が存すれば足り、特に傷害の意思の存在を必要としないのである。されば、仮りに、所論のように被告人には被害者に傷害を加える目的をもたなかつたとしても、傷害の原因たる判示の暴行についての意思が否定されえない限り、原判決には所論のような理由不備の違法は存しない。」

 

とし、暴行の故意のみで足りるとし、

 

暴行罪の成否については、

 

「被害者が打撲傷を負うた直接の原因が過つて鉄棒に躓いて顛倒したことであり、この顛倒したことは被告人が大声で『何をボヤボヤしているのだ』等と悪口を浴せ矢庭に拳大の瓦の破片を同人の方に投げつけ、尚も『殺すぞ』等と怒鳴りながら側にあつた鍬をふりあげて追かける気勢を示したので同人は之に驚いて難を避けようとして夢中で逃げ出し走り続ける中におこつたことであることは判文に示すとおりであるから、所論のように被告人の追ひ掛けた行為と被害者の負傷との間には何等因果関係がないと解すべきではなく、被告人の判示暴行によつて被害者の傷害を生じたものと解するのが相当である。」

とし、暴行罪の成立を認めました。

 

これまでご紹介した判例もそうですが、直接言及はしていませんが、身体への直接の接触がなくても、傷害の結果が生じる蓋然性が高い場合には、広く暴行罪の成立を認める方向にあるといえます。

 

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