頭髪の切断の傷害罪

005

弁護士の佐藤です。

 

今週もはじまりました。

 

さて、本日も刑法に関する判例をご紹介しますが、前回までは暴行罪に関する判例を紹介してきたのに対し、本日からはしばらく傷害罪の成否が問題となった判例をご紹介いたします。

 

 

事案は、被告人が被害者(女性)の頭髪の根元からの全部を切断したという痛ましい事件です。

 

 

何が争点かというと、傷害という定義が人の健康状態を不良に変更することをいうのであれば、頭髪の切断は健康状態に直接影響を与えるわけではないため、傷害罪が成立しないのではないかという点です。

 

この点、東京地方裁判所昭和38年3月23日判決は、

 

「被告人が本件被害者の頭髪を切除、裁断したことをもつて刑法二〇四条にいう傷害にあたるかどうかについて考えるに、同条にいう傷害とは、人の生活機能を障害すること即ち人の健康状態を不良に変更する場合のほか、人の身体の完全性を侵害する場合をもこれに含まれるものと解すべきところ、頭髪は人体の中枢をなす頭脳を外力から防護する生活機能をもつているほか、これにより身体の完全性が保持されているものということができる。ここに身体の完全性を侵害する場合というのは、もとよと、わが国古来の風俗、習慣、性別による観念の差異等社会観念と刑罰法令とを綜合的に考察して決すべき価値概念であるが、女性の頭髪は、前記のごとき生活機能をもつほか、女性の社会生活上重要な要素を占めている女性の容姿にとつて、まさに生命ともいうべきものとして古くから大切に扱われてきているところであつて、本件のように女性を虐待し、その自由意思によらないで頭髪の全部を根本からしかも不整形に切除、裁断するような行為は、刑法二〇八条の単純暴行の罪に止まるものではなく、進んで同法二〇四条の傷害の罪にあたるものと解すべきである。」

 

 

とし、傷害罪の定義を健康状態を不良に変更する場合のほか、人の身体の安全性を侵害する場合も含まれるとし、頭髪の重要性等から傷害罪の成立を認めました。

 

このように、前も言いましたが、刑法の各条文が定めている罪名の保護法益が何かによって罪名の成否が問題となることは多々あります。

 

傷害も様々な結果が考えられるため、傷害罪の成否が問題となった判例は多くあり、今後もその判例をご紹介していきたいと思います。

ページの先頭へ