詐欺罪~試乗車の乗り逃げ~

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弁護士の佐藤です。

 

今週もあっというまの金曜日です。

 

さて、本日も刑法に関する判例をご紹介したいのですが、本日も罪名を変えて、詐欺罪に関する判例をご紹介します。

 

前提として、まず条文ですが、刑法246条は、

  1. 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
  2. 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

と規定しています。

 

窃盗罪、傷害、暴行罪等と同じように、実務上は非常に関わりが多い罪名です。

 

そして、論点も多いところであり、そのため、詐欺罪に関する判例も数多くあります。

 

本日ご紹介する判例の事案は、試乗車を乗り回すことに興味を覚えた被告人が、自動車販売店を訪れ、自動車を購入する旨嘘を言って商談をした後、試乗をしたいと話を持ちかけて、同店に置いてあった試乗車を乗り逃げしたというものです。

 

被告人には窃盗前科が多数あったことから、常習累犯窃盗の罪で起訴されたのですが、試乗車の占有の帰属が問題となりました。つまり、検察官は、試乗車の提供が車両の性能等の体験を目的としており、その試乗時間は短く、試乗場所も近辺が予定されていること等から、試乗車には自動車販売店の事実上の支配が強く及んでおり、その乗り逃げは窃盗罪にあたるとしたものの、予備的に詐欺罪に訴因を変更したのです。

 

この点に関し、平成3年8月28日東京地方裁判所八王子支部は、

「検察官は、『いわゆる試乗は、自動車販売店である被害者が、サービスの一貫として、顧客になると予想される者に対し、当該車両の性能等を験して貰うことを目的に行っているものであって、試乗時間は一〇分ないし二〇分程度を、その運転距離も試乗を開始した地点の周辺が予定されており、そのため試乗車には僅かなガソリンしか入れていないこと、試乗車にもナンバープレートが取り付けられており、仮に勝手に乗り回されても、直ちに発見される可能性が極めて高いことなどからすると、試乗に供された車輌については被害者の事実上の支配が強く及んでおり、被告人の試乗車の乗り逃げ行為によって初めて、被害者側の事実上の支配を排除して被告人が自己の支配を確立したと見るべきであり、窃盗罪が成立することは明らかである。』旨主張する。」

とする検察官の主張に対し、

「確かに、試乗目的は、検察官の指摘するところにあって、被害者の試乗車に対する占有の意思に欠けるところはなく、かつ、前記二の2のように自動車販売店の営業員等が試乗車に添乗している場合には、試乗車に対する自動車販売店の事実上の支配も継続しており、試乗車か自動車販売店の占有下にあるといえるが、本件のように、添乗員を付けないで試乗希望者に単独試乗させた場合には、たとえ僅かなガソリンしか入れておかなくとも、被告人が本件でやったように、試乗者においてガソリンを補給することができ、ガソリンを補給すれば試乗予定区間を外れて長時間にわたり長距離を走行することが可能であり、また、ナンバープレートか取り付けられていても、自動車は移動性が高く、前記二1で認定のとおり、殊に大都市においては多数の車輌に紛れてその発見が容易でないことからすれば、もはや自動車販売店の試乗車に対する事実上の支配は失われたものとみるのが相当である。」

とし、

「そうすると、添乗員を付けなかった本件試乗車の被告人による乗り逃げは、被害者が被告人に試乗車の単独車をさせた時点で、同車に対する占有が被害者の意思により被告人に移転しているので、窃盗罪は成立せず、従って、主人位的訴因ではなく予備的訴因によって詐欺罪の成立を認めたものである。」

 

として詐欺罪の成立を認めました。

 

この論点は、試乗車における占有の有無、移転時期です。

 

上記判例に対し、旅館の宿泊客が、不法領得の意思で、その旅館の提供した、その所有の丹前、帯、下駄を着用したまま旅館から立ち去る所為は、窃盗罪にあたるとしたり(最決昭31・1・19参照)、古着商の店頭で、顧客を装い衣類を試着したまま小便に行くと偽って逃走した場合、詐欺罪ではなく、窃盗罪を構成するとする判例(広島高判昭30・9・6)等があり、占有の移転時期については、単純な事実上の占有だけではなく、各事情を総合考慮して判断されており、非常に難しい論点といえるでしょう。

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