詐欺罪~国民健康保険被保険者証の交付~

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弁護士の佐藤です。

 

今週も金曜日になってしまいました。

 

仕事もバタバタしておりますが、確定申告でもバタバタしております。

本当に嫌な作業です・・・。

 

さて、本日も刑法に関する判例のうち、詐欺罪の成立が問題となった判例をご紹介しますが、本日は、欺罔により、国民健康保険被保険者証の交付を受けたという行為が詐欺罪にあたるかが問題となりました。

 

具体的には、実弟の名義を冒用して国民健康保険被保険者資格異動届(取得用)1通を偽造したうえ、区役所の係員に提出・行使し、同係員を欺罔して実弟名義の国民健康保険被保険者証の発行交付を受けて騙取したとして起訴された事案です。

 

この点、第1審判決は、国民健康保険被保険者証は、国民健康保険の被保険者であることを証明することを内容とする公的証明書であり、それが不正取得されることにより侵害される利益は、専らその証明事項の真偽に係り、保険事業の適正な運営の確保による保険行政上の利益であつて、かかる利益は刑法にいう財産上の利益には該当せず、国家的・社会的利益に向けられた詐欺的行為は、個人的法益たる詐欺罪の定型性を欠くとして詐欺罪を構成しない旨判示しました。

 

これに対し、大阪高等裁判所5月23日判決は、

 

「そこで検討するに、国民健康保険被保険者証(以下、単に被保険者証ともいう)は、市町村が国民健康保険を行う場合にあつては、被保険者の属する世帯の世帯主が当該市町村から交付を受けるものであつて(国民健康保険法九条)、それはその交付を受ける者、その他一個人の所有権の客体となるべき有体物であり、刑法にいわゆる財物にあたるものといわなければならない。しかのみならず、その性質、効用をみると、被保険者証は、市町村が行う国民健康保険の被保険者であること、換言すれば、当該市町村から療養の給付を受けうる権利を有する者であることを証明する文書で(国民健康保険法九条、同法施行規則六条)、単なる事実証明に関する文書ではなく、財産上の権利義務に関する事実を証明する効力を有する文書というべきものであつて、被保険者が療養の給付を受けようとするときは、原則としてこれを療養取扱機関に提出しなければならないものであり(同法一二六条)、被保険者証は、単なる事実証明に関する文書とは異り、それ自体が社会生活上重要な経済的価値効用を有するものであるから、当該市町村の係員を欺岡して被保険者証の交付を受けてこれを取得する場合においても、詐欺罪の規定の保護に値し、同罪の構成要件を充足するものとして、詐欺罪の成立を認めるのが相当である(最高裁昭和二四年一一月一七日第一小法廷判決・刑集三巻一一号一八〇八頁参照)。原判決は、『それ(被保険者証)が不正取得されることによつて侵害される利益は、専らその証明事項の真偽に係り保険事業の適正な運営の確保による保険行政上の利益であつて、かかる利益は刑法にいう財産上の利益には該当しないというべきであり、国家的・社会的法益に向けられた詐欺的行為は、個人的法益たる詐欺罪の定型性を欠くものであるから、本件の欺罔手段を用いて国民健康保険被保険者証の交付を受ける行為は、財産権を侵害すべき性質をもたず、したがつて詐欺罪を構成しないものというべきである。』と判示する。しかし、原判決がいうように、欺罔手段を用いて国民健康保険被保険者証の交付を受ける行為が国家的・社会的法益の侵害に向けられた側面を有するとしても、そのことの故に当然に詐欺罪の成立が排除されるものと解するのは相当でない。すなわち、欺罔行為によつて国家的・社会的法益が侵害される場合においても、当該行為が同時に詐欺罪の保護法益である財産権を侵害し、同罪の構成要件を充足する以上、関係行政法規の規定中に、右のような欺罔行為等による不正行為を処罰する罰則規定を設けるなどして、詐欺罪の適用を排除する趣旨のものが認められない限りは、詐欺罪の成立を認めるべきものといわなければならない(最高裁昭和五一年四月一日第一小法廷決定・刑集三〇巻三号四二五頁参照)。」

 

とし、本件については、

 

「これを本件についてみるに、欺罔手段を用いて市の係員から国民健康保険被保険者証の交付を受けてこれを取得する行為は、前説示のとおり、詐欺罪の保護法益である財産権を侵害し、同罪の構成要件を充足するものであつて、国民健康保険法やその他の罰則規定等に、右のような行為について詐欺罪の適用を排除する趣旨のものと解せられる規定は存しないのであるから、被告人の本件右の行為は刑法二四六条一項に該当し、詐欺罪が成立するものというべきである。」

 

としました。

 

そして、

「したがつて、原判決が前記公訴事実について、被告人の行為は詐欺罪を構成しないとして、これを無罪としたことは、詐欺罪に関する法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、破棄を免れないところ、原判決は、右公訴事実に係る罪と原判示第二の偽造有印私文書行使とが牽連犯の関係にあるとして起訴されたものであるとし、これと原判示第一の一、二及び第三の各罪とを刑法四五条前段の併合罪として一個の刑を科しているのであるから、原判決は全部破棄を免れない。」

 

とし、原判決を破棄しております。

 

公的機関が発行するものには様々な種類のものがありますが、被保険者証に関して言えば、療養取扱機関にそれを提示して療養給付を求めることによつて直接に財産的利益をうけられる経済的価値を有しているのであるから、本判決は極めて妥当な判断を示したものといえるでしょう。

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