詐欺罪~キセル乗車~

002

弁護士の佐藤です。

 

今週もあっというまの金曜日です。

 

さて、本日も刑法に関する判例のうち、詐欺罪の成否が問題となった判例をご紹介します。

本日ご紹介する判例は、最近この言葉自体聞かなくなりましたが、いわゆるキセル乗車に関するものです。

 

事案は、被告人は、岡山駅から名古屋駅まで無賃乗車することを企て、岡山駅で入場券を買い求め、同駅改札係員にキセル乗車の意図を隠して入場券を提示し、同駅乗降場に入場し、新大阪行急行に乗車したのですが、途中で検札にあって姫路駅で下車されたというものです。

 

この点、第一審判決は、欺罔行為及び処分行為がないとして、被告人に無罪を言い渡しました。

 

そこで、検察側が控訴した事件が、昭和51年12月6日広島高等裁判所松江支部判決です。

この点上記判決は、

「本件において、被告人は当初から名古屋駅まで無賃乗車して運賃の支払をしない意思であるにもかかわらずその意図を秘し、単に乗降場に入場するのみであるように装つて改札係員に入場券を呈示したものであるところ、右入場券呈示行為は改札係員に対し入場料金を支払つたことおよび乗車することなく乗降場を出る意思であることを告知したものというべきであるから、被告人は後者の点において欺罔的な行為をなしたものということができ、また、被告人が岡山駅から姫路駅までの正当な運賃を支払うことなく前記列車に乗車してその間の乗車賃相当の輸送の利益を得たことは明らかである。しかしながら、前記被告人の入場券呈示行為が詐欺利得罪の欺罔行為に該当するというには、改札係員ないし改札係員および前記列車の乗務員において、被告人の入場券呈示行為による錯誤に基づく財産的処分行為があつたということ(さらにさかのぼつては、被告人の欺罔的行為がそのような処分行為をなさしめるような性質のものであつたということ)ができなければならないので、この点につき以下判断する。」

 

とした上で、

「まず、所論は、改札係員の入場許諾行為がそれ自体処分行為に該当すると主張し、その論拠として、『乗車中あるいは下車の際に運賃の精算をすることも可能であり、一般の常識もそのような方法による運賃の支払を特に不当、異常とは考えていないから、改札係員としても入場券による入場者が列車に乗車することを予期しており、少なくとも潜在的にはその欲する区間の乗車を許容したことになるといつてよい。そして改札係員が乗降場に入場させた以上、乗客か入場客かを区別することはできず、入場客の列車への乗車を阻止する機構にもなつていないので、不正乗車の意図ある被告人に改札口を通過させた改札係員の行為は、社会的にみて輸送機関の利用という財産上の利益を与える行為である。』というのであるが、運賃が後払いされることが一般に特に異常なものと考えられておらず、改札係員がある程度このことを予期していて、国鉄が入場客の列車への乗車を阻止する設備を特に置いていないことは所論指摘のとおりであるけれども、右のような事情は、むしろ、国鉄が運賃の徴収を確保するため、改札係員に対しては専ら利用者が乗車することを含め乗降場に入るベき資格を有するか否かについて審査せしめているにすぎないことを示すものというべきであり、改札係員の入場を許容する行為が乗客ないし入場券による入場客に対し、その欲する区間の乗車を許容するとか、あるいはどの区間を乗車するとかしないとかを確かめその是非を決するような性質のものであるとは考えることができない(そのうえ、昭和三三年日本国有鉄道公示第三二五号旅客営業規則二九六条二項によれば入場券所有者は列車等に立入ることができない旨定められているのである。)。たまたま改札係員が入場券呈示者に乗車の意図のあることを知り得た場合に入場を拒否できることは、もとより右のように解するについて妨げとなるものではない。」

とし、

「見方を変えて言えば、被告人に不正入場を許容することによつて改札係員は被告人に入場券による正当な入場者と同一の地位を取得させたに過ぎないのであり、右のようにして入場した被告人が潜在的に輸送の利益を受ける可能性を有するということは被告人の主観的意図を別にしては格別の意味を有する事柄ではなく、そこに客観的に見て単なる入場自体による利益以上の利得が生じており、右入場許容行為がそのような利益を与える処分行為であるということはできない。なお改札口を通過して乗降場に入場すること自体が、入場券につき料金が定められていることから明らかなように、財産上の利益を得る行為であるということはできるけれども、本件においては被告人が輸送の利益を得たことが問題となつているのであつて、乗降場に入場した利益を得たということが問題となつているのではないから、この点を論拠に改札係員に処分行為があつたと考えることもできない。」

 

としました。そして、

 

「以上のとおり、改札係員が被告人をして改札口を通過させた行為が、被告人に対して本件に関しなんらかの処分行為をしたものということはできない。次に、所論は、被告人に対して処分行為をしたのは前記列車の乗務員であると主張し、『国鉄のような組織体においては、被欺罔者である改札係員のとつた処置により当然に他の職員から有償的役務の提供を受ける機構になつているから、被欺罔者と処分行為者が異なるときでも詐欺罪は成立する。』というけれども、前記のとおり詐欺罪が成立するためには、被欺罔者が錯誤によつてなんらかの財産的処分行為をすることを要するところ、本件においては前記列車の乗務員が、被告人から直接または改札係員を利用して間接に欺罔されて錯誤に陥つたというような事情は認められず、また処分行為者とされる乗務員が被欺罔者とされる改札係員の意思支配のもとに被告人を輸送したとも認められないのであるから、単に組織体の機構を理由として被欺罔者の錯誤に基づく処分行為がなされたとすることは相当ではない。すなわち、改札係員は前記のとおり利用者の入場の資格を審査するものであつて、さらに進んで入場券による入場者に対する乗車の許否に関し乗務員と個別的な意思連絡をとるわけではなく、また、処分行為者とされる列車乗務員が被告人を輸送したという行為を中心に考えると、被告人が入場券を呈示した欺罔的行為は、乗降場にやすやすと入場するための方便としての意味をもつにとどまり、輸送の利益を得るために乗務員に対して直接向けられたものではないから、顧客を装い、店員に対して『品物を見せてくれ。』と申し向け、物品の交付を受けた後、隙をみて逃走するような行為について詐欺罪の成立が否定される(窃盗罪に間擬すべきである。)のと同様に被欺罔者による処分行為があつたとはいえない。」

 

とし、結論として、

「以上の考察によれば、本件被告人の欺罔的行為は、その性質上、これに対応すべき被欺罔者の処分行為を欠くものであり、この点において被告人の所為は刑法二四六条二項の詐欺利得罪を構成しないものというべく、原審の審理経過に照らし検察官が鉄道営業法二九条違反として被告人の処罰を求める意思がないことは明らかであるから、右と同旨の判断のもとに被告人に無罪を言渡した原判決には所論の事実誤認ないし法令の解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。」

 

として、控訴を棄却しました。

 

このキセル乗車による詐欺罪の成否も司法試験受験時代、よく勉強したところで、学説も複雑に多く存するところですが、もう切符を切るということ自体がないので、このような判例が今後でてくることはないのでしょうね。

ページの先頭へ