被害者が自動車から飛び降りた場合の遺棄罪の成否

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弁護士の佐藤です。

 

さて、本日も刑法に関する判例ですが、本日も前回同様遺棄罪に関する判例をご紹介します。

 

本日の事案は、被告人が被害者を誘って自ら運転する自動車に乗せ走行中、下車を求められたのに走行を継続したため、被害者が路上に飛び降り重症を負ったところ、その後、被告人は被害者にもとに立ち戻りこれを確認したが、人が出てくるのを認めて、発覚を恐れ、付近の畑内の窪みに被害者を移動させ、立ち去ったというものです。

この事案の争点、つまり弁護人の主張は、被害者の受傷は、高速で動いている場所から飛び降りたことに起因するもので、車両等の交通に起因するものではないから、原判決が被告人に対し道路交通法第七二条第一項前段による救護義務を認めたのは同条の解釈を誤つており、仮に救護義務が認められるとしても、同条は単に道路交通に関する行政の便宜のために緊急措置を要求しているにすぎず、その救護義務は、刑法第二一八条第一項にいわゆる保護責任とは異質のもの、あるいは、はるかに低度のものにすぎず、前者の義務違反があつてもただちに保護者遺棄にあたるとはいえないのではないか、また、その事実認定のもとで、被告人は条理上当然に中島を保護すベき責任があるとしているが、刑法第二一八条の規定は、被害者の生命身体に対する危険よりは行為者の保護義務違反に対する非難を中心に考えて単純遺棄罪より重い刑を規定しているのであるから、単なる条理を根拠に同条の保護責任を認めることは許されない。というのである。

この点に関し、東京高裁昭和45年5月11日判決は、

 

「中島は被告人の運転する乗用車の助手席に同乗して、走行中飛び降りて負傷したというのであるから、右は道路交通法第七二条第一項前段にいう『車両等の交通による人の死傷』にあたり、被告人は同条項による救護義務を負うことは明らかである。」

 

とし、

保護責任者遺棄については、

「刑法第二一八条第一項の保護責任の根拠は、法令、契約、慣習、条理などのいずれであるかを問わないのであつて、所論のように条理を除外すべき理由はない。したがつて、本件のように、自動車運転者が歩行者を誘つて助手席に同乗せしめて走行中、しきりに下車を求められたにもかかわらず走行を継続したため、同乗者が路上に飛び降り重傷を負つた場合に、その救護を要する事態を確認した運転者としては、いわゆる自己の先行行為に基き、刑法第二一八条第一項の保護責任を有するものというべく、このことは右運転者が道路交通法第七二条第一項前段の救護義務を有すると否とを問わないと解すべきである。原判決が、被告人につき道路交通法上の救護義務があるとしたうえ、さらに、条理上当然に同女を保護すべき責任があるとしたのも、以上と同趣旨の判示をしたものと解されるので、同判決には、刑法第二一八条第一項の解釈適用を誤つた違法はない。」

としました。

 

この点、被害者が自ら自動車から飛び出たという点で、前回お話したひき逃げ事案とは異なるようにみえるのですが、被害者としては被告人の行為に起因して救護を要すべき状態に置かれたことは間違いないので、道交法の救護義務が生じたと見るのが当然であるし、その場合被告人の保護責任が条理によって生じると見た控訴審の見解は正当であってこの点では普通のひき逃げと異ることはないといえるでしょう。

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