自殺関与罪と殺人罪の限界

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弁護士の佐藤です。

さて、本日も刑法に関する判例をご紹介しますが、前回同様、自殺関与罪と殺人罪の限界事例をご紹介します。

事案は、一人暮らしの老女の信頼を得ていた被告人は、同女から合計750万円を欺罔的な手段で借り受けたが返済のめどがたたず、その発覚を免れるため同女を自殺させようと考え、同女に対し、同女が第三者に金員を貸し付けていることが出資法という法律に違反しており、まもなく警察が調べに来て、罪になると3箇月か4箇月刑務所に入ることになるなどと虚構の事実を述べて脅迫し、同女を警察の追及から逃れるためという口実で諸所を連れ回り、その間、知り合いや親戚との接触を断ち、体力も気力も弱った同女に対し、どこにも逃げ隠れする場がないという状況にあるとの錯覚に陥らせた上、身内に迷惑がかかるのを避けるためにも自殺する以外にとるべき道はないと執拗に慫慂して同女を心理的に追いつめ、犯行当日には、警察官がついに被告人方にまで事情聴取に来たなどと警察の追及が間近に迫っていることを告げてその恐怖心を煽る一方、唯一同女の頼るべき人として振る舞ってきた被告人にも警察の捜査が及んでこれ以上庇護してやることはできない旨告げて突き放すなどし、同女にもはやこれ以上逃げる方途はないと誤信させて自殺を決意させ、農薬を飲ませて死亡させたというものです。

非常にいたたまれない事案ですが、この事案も死というものに対して被害者も同意しており、動機に錯誤があるにすぎず、自殺関与罪にとどまるのではないかが争われました。

この点に関し、福岡高裁宮崎支部平成元年3月24日判決は、

「自殺とは自殺者の自由な意思決定に基づいて自己の死の結果を生ぜしめるものであり、自殺の教唆は自殺者をして自殺の決意を生ぜしめる一切の行為をいい、その方法は問わないと解されるものの、犯人によって自殺するに至らしめた場合、それが物理的強制によるものであるか心理的強制によるものであるかを問わず、それが自殺者の意思決定に重大な瑕疵を生ぜしめ、自殺者の自由な意思に基づくものと認められない場合には、もはや自殺教唆とはいえず、殺人に該当するものと解すべきものである。これを本件についてみると、原判決挙示の関係証拠を総合すると、被告人は、当時六六歳の独り暮らしをしていた被害者Mから、原判示のような経緯で盲信に等しい信頼を得て、短期間に合計七五〇万円もの多額の金員を欺罔的手段で借受けたが、その返済のめどが立たなかったことから、いずれその事情を同女が察知して警察沙汰になることを恐れ、発覚を免れるため同女をして自殺するよう仕向けることを企て、昭和六〇年五月二九日、同女がSに金員を貸してしたことを種にして、それが出資法という法律に違反しており、まもなく警察が調べに来るが、罪となると三か月か四か月刑務所に入ることになるなどと虚偽の事実を述べて脅迫し、不安と恐怖におののく同女を警察の追及から逃がすためという口実で連れ出して、一七日間にわたり、原判示のとおり鹿児島から福岡や出雲などの諸所を連れ回ったり、自宅や空家に一人で潜ませ、その間体力も気力を弱った同女に、近所の人にみつかるとすぐ警察に捕まるとか、警察に逮捕されれば身内の者に迷惑かかかるなどと申し向けて、その知り合いや親戚との接触を断ち、もはやどこにも逃げ隠れする場がないという状況にあるとの錯誤に陥らせたうえ、身内に迷惑かかかるのを避けるためにも自殺する以外にとるべき道はない旨執拗に慫慂して同女を心理的に次第に追いつめ、犯行当日には、警察官がついに被告人方にまで事情聴取に来たなどと警察の追及が間近に迫っていることを告げてその恐怖心を煽る一方、唯一同女の頼るべき人として振る舞ってきた被告人にも警察の捜査が及んでおりもはやこれ以上庇護してやることはできない旨告げて突き放したうえ、同女が最後の隠れ家として一縷の望みを託していた大河原の小屋もないことを確認させたすえ、同女をしてもはやこれ以上逃れる方途はないと誤信させて自殺を決意させ、原判示のとおり、同女自らマラソン乳剤原液約一〇〇ccを嚥下させて死亡させたものであることが認められる。右の事実関係によれば、出資法違反の犯人として厳しい追求を受ける旨の被告人の作出した虚構の事実に基づく欺罔威迫の結果、被害者Mは、警察に追われているとの錯誤に陥り、更に、被告人によって諸所を連れ回られて長期間の逃避行をしたあげく、その間に被告人から執拗な自殺慫慂を受けるなどして、更に状況認識についての錯誤を重ねたすえ、もはやどこにも逃れる場所はなく、現状から逃れるためには自殺する以外途はないと誤信して、死を決したものであり、同女が自己の客観的状況について正しい認識を持つことかできたならば、およそ自殺の決意をする事情にあったものは認められないのであるから、その自殺の決意は真意に添わない重大な瑕疵のある意思であるというべきであって、それが同女の自由な意思に基づくものとは到底いえない。したがって、被害者を右のように誤信させて自殺させた被告人の本件所為は、単なる自殺教唆行為に過ぎないものということは到底できないのであって、被害者の行為を利用した殺人行為に該当するものである。」

として、殺人罪(正確には、強盗殺人罪)の認定をしました。

前回の最高裁と同様に判断で、自由な意思により自殺を決定したかどうかが自殺関与罪と殺人罪の限界の判断要素となっています。

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