置き忘れたカメラの持ち去り

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弁護士の佐藤です。

 

さて、本日も前回同様、刑法に関する判例のうち、窃盗罪の成否が問題となった判例をご紹介しますが、前回までは財物性が問題となったものでしたが、今回からは、占有の有無が問題となった判例をご紹介します。

どういうことかといいますと、窃盗罪が成立するためには、他人が占有する物を窃取することが必要になります。

 

では、他人の占有を離れてしまったもの、例えば、遺失した物をたまたま発見して、持って行ってしまった場合、罪名はどうなるのでしょうか。

 

この点に関しては、占有離脱物横領罪という規定があり、刑法254条は

 

遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

と規定しています。

 

前にもお話しましたが、窃盗罪の法定刑が、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金であったことから考えると、他人の意思に反して占有を離脱させた場合と、すでに占有が離脱した物を窃取する場合では、その罪の重さは大きく違います。

 

そこで、本日ご紹介する事案は、被害者がバスを待つ間に写真機を身辺30糎の個所に置き、行列の移動に連れて改札口の方に進んだが、改札口の手前約3.66米の所に来たとき、写真機を置き忘れたことに気づき直ちに引き返したところ、既にその場から持ち去られていたもので、行列が動き始めてからその場所に引き返すまでの時間は約5分、写真機を置いた場所と引き返した点との距離は約19.58米に過ぎないような事案でした。

 

弁護人は、被告人は本件写真機を拾つたもので盗んだものではないから占有離脱物横領罪を構成することあるも窃盗罪は成立しないという主張をしたことに対し、昭和32年11月8日最高裁判所判決は、

 

「本件写真機が果して被害者(占有者)の意思に基かないでその占有を離脱したものかどうかを考えてみるのに、刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であつて、その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によつて一様ではないが、必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以て足りると解すべきである。しかして、その物がなお占有者の支配内にあるというを得るか否かは通常人ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によつて決するの外はない。」

 

として、占有の有無の基準を設定した上、本件では、

 

「原判決が本件第一審判決挙示の証拠によつて説示したような具体的状況(本件写真機は当日昇仙峡行のパスに乗るため行列していた被害者がバスを待つ間に身辺の左約三〇糎の判示個所に置いたものであつて、同人は行列の移動に連れて改札口の方に進んだが、改札口の手前約二間(三・六六米)の所に来たとき、写真機を置き忘れたことに気がつき直ちに引き返したところ、既にその場から持ち去られていたものであり、行列が動き始めてからその場所に引き返すまでの時間は約五分に過ぎないもので、且つ写真機を置いた場所と被害者が引き返した点との距離は約一九・五八米に過ぎないと認められる)を客観的に考察すれば、原判決が右写真機はなお被害者の実力的支配のうちにあつたもので、未だ同人の占有を離脱したものとは認められないと判断したことは正当である。引用の仙台高等裁判所判例は事案を異にし本件に適切でない(なお、引用の昭和二三年(れ)第七九七号事件は同年八月一六日上告取下により終了したものである)。また、原判決が、当時右写真機はバス乗客中の何人かが一時その場所においた所持品であることは何人にも明らかに認識しうる状況にあつたものと認め、被告人がこれを遺失物と思つたという弁解を措信し難いとした点も、正当であつて所論の違法は認められない。」

 

として、占有を認め、窃盗罪の成立を認めました。

 

上記最高裁はいうように、占有の有無は、個別具体的に各事情を細かく判断し、決定せざるを得なく、単に、物理的に占有者から離れていたかいなかで判断すべきことではないと思います。

特に、占有離脱物横領罪の法定刑が窃盗罪の法定刑よりも極端に軽いことを考えると、完全な離脱が必要なのではないかと思います。

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