法人に対する脅迫罪の成否

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弁護士の佐藤です。

 

11月です。

 

さて、本日も刑法に関する判例のうち、前回に続き脅迫罪についての判例をご紹介します。

 

本日ご紹介する判例において争点となったのは、法人に対して脅迫罪が成立するかという問題です。

 

事案は、暴力団組員である被告人らが、大手建設会社(X社)の下請工事の発注に際し、同社が当初発注を予定していなかった会社に工事を発注させようとして、X社の土木管理部長と総務部次長に対し、暴力団の名刺を見せながら「(A社に工事を発注しなければ、)仕事ができんようになるぞ。」などと語気鋭く申し向けたというものです。

 

この点、原審は、原審は、右事実を「暴力団の団体の威力を示し、かつ、数人共同して被害者等の生命・身体及びX社の営業等に如何なる危害を加えるかも知れない旨気勢を示して脅迫した。」として暴力行為等処罰に関する法律1条の脅迫罪の成立を認めました。

 

これに対し、昭和61年12月16日大阪高等裁判所判決は、

 

「刑法二二二条の脅迫罪は、刑法体系上、生命、身体に対する殺人の罪、傷害の罪に引き続き、人身の自由に対する罪として、逮捕・監禁の罪及び略取・誘拐の罪と並んでそれら両者の間に置かれ、人の意思活動の平穏ないし意思決定の自由をその保護法益とするものであることにかんがみ、さらに同条各項の文言自体をも参照すると、同条一項の脅迫罪は、自然人に対しその生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加えることを告知する場合に限つて、その成立が認められ、法人に対しその法益に危害を加えることを告知しても、それによつて法人に対するものとしての同罪が成立するものではなく、ただ、それら法人の法益に対する加害の告知が、ひいてその代表者、代理人等として現にその告知を受けた自然人自身の生命、身体、自由、名誉又は財産に対する加害の告知に当たると評価され得る場合にのみ、その自然人に対する同罪の成立が肯定されるものと解される。」

 

とし、法人に対しては、原則的に脅迫罪の成立を否定し、法人の法益に対する加害の告知が、ひいてその代表者、代理人等として現にその告知を受けた自然人自身の生命、身体、自由、名誉又は財産に対する加害の告知に当たると評価され得る場合にのみ、その自然人に対する同罪の成立が肯定されるとしました。

 

そして、本件については、

 

「この解釈は、同条一項を構成要件の内容として引用している暴力行為等処罰に関する法律一条の集団的脅迫罪についても、そのまま当てはまるといわなければならない。翻つて原判文をみるに、原判決が、上記のごとく、加害の対象として『同社の営業等』を掲げ、・・ら個人に対する脅迫行為と上記・・建設株式会社に対する脅迫行為とを並記し、右会社の営業等に対する加害の告知が、ひいて現にその告知を受けた・・ら自身の法益に対する加害の告知に当たると評価され得ることを示すような事情を全く摘示していないことからすれば、原判決は、・・らに対する脅迫罪を構成する事実と右会社自体に対する脅迫罪を構成するものとする事実とを認定、判示し、この両者に対し暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二二二条一項)を適用したものと解される。そうしてみると、原判決は、上記説示から明らかなように、罪とならない事実を犯罪事実として認定、判示して、これに刑罰法令を適用したことになり、それは法令の解釈、適用を誤つたもので、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。」

としました。

 

そして、本判決はさらに、

 

「なお、かりに、原判決はもつぱら・・ら個人に対する脅迫罪を認定しているのであり、従つて原判決が加害の対象として『同社の営業等』を挙げているのは、・・ら個人に対して告知された害悪の内容としてこれを摘示したものと解し得るとしても、刑法二二二条一項を構成要件の内容として引用する暴力行為等処罰に関する法律一条の集団的脅迫罪において、加害の対象となる法益は害悪の告知を受ける自然人自身の法益に限られ、第三者である法人の法益に対して危害を加えることを告知しても、それがひいてその自然人自身の法益に対する加害の告知に当たると評価され得る場合でない限り同罪の成立しないことは、上記説示によつて明らかであるところ、原判決は、上記のように、『同社の営業等』に対する加害の告知(それは原判示脅迫言辞の大半を占めている。)が・・ら自身の法益に対する加害の告知に当たると評価され得ることを示すような事実を全く示していないのであるから、原判決が罪とならない事実を犯罪事実として認定、判示して、これに刑罰法令を適用しているのは前同様であつて、原判決には法令の解釈、適用の誤りがあり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。」

とし、

「よつて、論旨について判断するまでもなく、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈、適用の誤りがあるので、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、更に審理をさせるため(原判示脅迫言動のうち、いずれが上記会社の営業等に対する加害の告知であり、いずれが・・ら個人の法益に対する加害の告知であるとみるべきか、また右会社の営業等に対する加害の告知がひいて・・ら自身の法益に対する加害の告知にあたると評価され得るような事情が存在するか否か、などの点について更に審理を尽す必要があるので、当裁判所による自判は相当でない。)、同法四〇〇条本文により本件を大阪地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。」

 

として、原審の大阪地方裁判所に差し戻しました。

 

脅迫罪の保護法益からすれば、やはり法人への脅迫罪というものは否定せざるをえなかと私も思います。なお、学説の多くもこの判例を支持しているものと思われます。

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