死者の占有2

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弁護士の佐藤です。

 

今週も始まってしまいましたが、今年もあとちょっとでございます。

さて、本日も淡々と刑法に関する判例のうち、窃盗罪の成否が問題となった判例をご紹介いたします。

 

前回同様、本日も死者の物を盗んだ場合の窃盗罪の成否が争点となった事案です。

 

具体的には、アパートに1人で住んでいた女性を殺害し、その直後現金を取り、一たん現場を立ち去り、約9時間して現場に戻り、郵便貯金通帳を持ち去つたという事案です。

 

前回は、死亡直後でしたが、本件は、殺害後9時間を経過しているというものです。

 

この点に関し、東京地方裁判所昭和37年12月3日付判決は、

 

「刑法上、死亡した・・・・自身の占有を認めることができるか否かについて考察する。この点につき自己の責任において人を死亡させた者が、死亡直後、死者の懐中から財物を奪取した行為に対し窃盗罪の成立を認めた判例が存在することは検察官の指摘するとおりである(昭和一六年一一月一一日、大審院第四刑事部判決参照)。そして人の死亡により原則としてその者の占有を離脱するものではあるが、刑法上財物に対する占有の有無を論ずるに当つては、ただ右の一事のみを捉えて画一的に決定することは適当でなく、その際における具体的事情例えば、財物奪取者の被害者の死亡に対する責任の有無、財物奪取と死亡との時間的接着並びに機会の同一性の有無等の諸点を考慮のうえ財物の占有を保護する刑法の理念に鑑み、なお死者において財産を占有しているものとの評価を与えることが相当な場合も存在する(それ故、判示第二の事実については、・・はすでに死亡していたが、被告人が・・を殺害したものであること、殺害後間もなく、かつ、同一と見られる機会に現金七、〇〇〇円を奪取したものであること等の事情を考慮し、死亡した・・になお現金七、〇〇〇円の占有ありと認めて本件を窃盗罪に問擬した次第である。)。しかし、これには当然一定の限度が存在することはいうまでもなく、たとえ財物奪取者が被害者の死亡に対し責任を有する場合であつても、死亡後すでに相当の時間を経過し、または死亡と全く別個の機会に財物を奪取したようなときには、最早死者の占有を犯したとはいい得ないものと解する。この点検察官は、前示判例が指摘する死亡後『直ちに』という文言は被害者において生前占有していたことが明らかであることの一つの状況として挙げられているものである旨主張するが、むしろこれは死者に占有を認め得る時間的限界を示したものと見るのが相当である。」

 

とし、時間の経過により、死者の占有が認められないことを示しました。

 

そして、本件では、

 

「今これを本件について見るに、証拠によれば、判示のとおり被告人は五月二八日午後一一時頃、殺害した・・の居室から現金七、〇〇〇円を窃取して同所を立ち去り、知人と都内のバーを廻つて飲酒したり、旅館に宿泊して右金員を費消したのち、・・が生前郵便貯金通帳を所持していたのを想起するや、預金を引き出して自己において使用しようと考え、殺害後九時間位経過した(検察官は一五時間位経過後というが、証拠によれば九時間位経過後と認められる)翌二九日午前八時頃、再び・・の居室へ赴いて郵便貯金通帳を持ち去つていることが明らかであるから、たとえ被告人が・・を殺害した本人であるとしても、すでに九時間位経過した場谷には死亡後『直ちに』とはいい難く、また死亡と全く別個の機会に持ち去つているのであるから、最早死亡した・・に右通帳の占有を認めることはできないものといわなければならない。」

とし、窃盗罪ではなく、占有離脱物横領罪の成立を認めました。

 

本件は、主に時間の経過という時間で占有の有無を判断しています。当然、時間の経過も重要な要素となることは間違いありません。

もっとも、同じ下級審レベルで、異なる判断をしたものがあります。

もちろん事案はことなりますが、次回、その判例をご紹介します。

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