業務上堕胎罪と保護責任者遺棄罪

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弁護士の佐藤です。

 

今週もはじまりました。

さて、本日も刑法に関する判例をご紹介いたします。

 

事案の紹介をする前に、まず、条文を確認しますが、刑法214条は、

医師、助産師、薬剤師又は医薬品販売業者が女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させたときは、3月以上5年以下の懲役に処する。よって女子を死傷させたときは、6月以上7年以下の懲役に処する。

と規定し、業務上堕胎罪を定めています。

そして、刑法218条は、

老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。

と規定し、保護責任者遺棄罪をさだめ、さらに、刑法219条は、

前2条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

と規定し、保護責任者遺棄致死傷罪を定めています。

そこで、上記罪名の成否が争われた事案が、産婦人科医師である被告人が、妊婦の依頼で既に妊娠第26週に入っていた胎児の違法な堕胎を行い、右堕胎により出生させた未熟児(推定体重1000グラム弱)を自己の医院内に放置して約54時間後に死亡させ、さらに、同児の死体を引き取りに来た父親に指示して、畑に埋めさせて遺棄したというものです。

なんとも痛ましい事件ですが、この事案の争点は、優生保護法2条2項が、「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出すること」を人工妊娠中絶と定義し、厚生事務次官通知により、現在この時期は、通常妊娠満23週以前とされており、本件では、第26週に入っているから、人工妊娠中絶には当たらず、業務上堕胎罪が成立するのであるが、問題は、このような違法な堕胎を行った被告人に対して、さらに保護者遺棄致死罪が成立するのかという点です。つまり、母親の胎内で死んで出てくれば、業務上堕胎罪しか成立しないところ、生きて生まれたため、医師がこれを放置して死なせた場合に、どのような事情が認められれば、同罪のほかに保護者遺棄致死罪が成立するのかということが裁判で争われました。

上記争点について、生育可能性の有無を問わず業務上堕胎罪で評価し尽くされ保護者遺棄致死罪は成立しないという学説もあるところ、昭和63年1月19日最高裁判決は、

「保護者遺棄致死の点につき職権により検討すると、原判決の是認する第一審判決の認定によれば、被告人は、産婦人科医師として、妊婦の依頼を受け、自ら開業する医院で妊娠第二六週に入つた胎児の堕胎を行つたものであるところ、右堕胎により出生した未熟児(推定体重一〇〇〇グラム弱)に保育器等の未熟児医療設備の整つた病院の医療を受けさせれば、同児が短期間内に死亡することはなく、むしろ生育する可能性のあることを認識し、かつ、右の医療を受けさせるための措置をとることが迅速容易にできたにもかかわらず、同児を保育器もない自己の医院内に放置したまま、生存に必要な処置を何らとらなかつた結果、出生の約五四時間後に同児を死亡するに至らしめたというのであり、右の事実関係のもとにおいて、被告人に対し業務上堕胎罪に併せて保護者遺棄致死罪の成立を認めた原判断は、正当としてこれを肯認することができる。」

として、原審の判断を支持し、被告人に業務上堕胎罪のほか、保護責任者遺棄致死罪の成立を認めました。

上記最高裁は、判示のとおり、出生した未熟児に生育可能性を前提に、様々な要素を総合考慮し、保護責任者遺棄の成否を判断しています。

上記判例は、医療の向上により、適法な堕胎行為を行った場合でも、生育可能な育児が出生した場合や、そのほか様々な医療の場で、保護責任者遺棄の有無が問題となりうる可能性が今後もあり、非常に重要な判断基準を示した判例と言えます。

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