本人所有の建物への侵入と住居侵入罪

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弁護士の佐藤です。

 

さて、本日も刑法に関する判例のうち、住居侵入罪に関する判例をご紹介します。

 

前回は同意があった場合の住居侵入罪の成否についての判例をご紹介しましたが、本日は、自分の自宅に入る行為が住居侵入罪といえるかということが争われた事案です。

 

どういうことかといいますと、妻と別居して離婚訴訟中であった被告人は、妻の住む自己所有の家屋へ、妻の不貞行為の事実の現認と証拠保全の目的で、従前より所持していた合鍵を使用して夜間玄関から立ち入ったというものです。

 

自分の自宅なので、住居侵入罪は成立しないようにも思えますが、東京高等裁判所昭和58年1月20日判決は、

 

「確かに,関係証拠によると,本件家屋の所有関係,所論表札の使用・合鍵の所持,被告人と右家屋の居住者である・・とが法律上の夫婦であること,別居後あるいは離婚訴訟中における両名の交渉関係,さらには被告人が本件家屋に立ち入った目的などについて,所論のとおりの事実関係が認められるが,原判決が『本件の経緯』及び『刑事訴訟法335条2項についての判断』の各項において詳細に説示しているとおり,その説示のような経過を辿って離婚の訴を提起した・・に対し被告人からの離婚の反訴が提起された昭和55年初め頃には,両名共に離婚の意思は決定的となり,婚姻関係は破綻し,将来再び同居する可能性のない状態に立ち至っていたのであり,しかして,その後もその破綻の度を深めつつ推移して被告人ら夫婦が別居を始めてから約2年6か月,同居の可能性が潰えてから約1年5か月をそれぞれ経過後の本件当夜に至り,被告人において原判示の目的をもってたまたま持ち合わせていた合鍵を使用し・・・方玄関入口の施錠を開け,同女の意思に反してその住居内に立ち入ったものであって,被告人の所為が社会的相当性を欠くものであることは極めて明らかであるというべきである。」

 

とし、さらに、

 

「被告人において所論のような民事上の権利を有するからといって,被告人の本件所為が刑法的評価の面において適法視される理由はなく,また,所論のように離婚訴訟中に被告人ら夫婦が2人だけで話し合いを持ったのは,その双方に和合の希望,意図があったからではなく,離婚を前提としたうえ財産分与の問題を早急に解決しようとする意図があったからであること,右両名の所論の性交渉も未だ互いに未練を残していた別居直後の時期におけるものであること,・・において被告人に所論の合鍵を所持させたままにしておいたのは,被告人に同女方への立ち入りを容認していたからではなく,同女においてよもや被告人がこれを使用して同女方に立ち入ることはあるまいと思い,同居の可能性がなくなった後においても,被告人から敢えて右合鍵を回収することなくそのままにしておいたからであることはいずれも証拠上動かしがたいところであり,るる説示するまでもなく,被告人の本件所為が刑法130条前段にいう『故ナク人ノ住居・・・・・・ニ侵入』する行為にあたるものであることは明らかであって,所論は採用することができない。所論(2)については,右に説示したような事実経過からして明らかなように,被告人の本件所為は,所論の目的を達成するための唯一の方法であるかどうかにかかわらず,やむをえない行為とは認められないから,期待可能性がないものとはいえず,所論は失当というべきであり,所論(3)についても,前示事実経過からして被告人の所為が可罰的違法性を欠くものとは到底認められず,所論は失当というほかはない。」

 

として、被告人に住居侵入罪の成立を認めました。

 

事実上の住居の平穏という保護法益からかんがえても、別居期間が相当期間におよび夫婦関係は破綻している状況であれば、いくら自己の所有物とはいえ、保護すべき法益があるといえ、住居侵入罪の成立を認めた結論は妥当といえます。

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