暴行後の領得5

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弁護士の佐藤です。

 

さて、本日も刑法に関する判例のうち、強盗罪の成否に関する判例をみていきたいと思います。

 

本日は、前回お話したとおり、暴行後の領得に新たな暴行脅迫が必要かという論点で、不要とした判例をご紹介します。

 

まず、事案ですが、被告人と共犯者とは、金員に窮した末、共同して他人の家に忍び込んで金品を窃取しようと話合い、手ごろな家を物色中、被害者宅の窓から室内の様子を窺つた際、被害者の寝ているのが目に入りました。そこで、被告人らは、髪が長かつたこともあつて同人が女性のように見えたところから、共犯者が被告人に強姦の誘いをかけ、被告人も「やろう」とこれに応じ、窓から室内に押入り、被害者の首を押えつけ、「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ」と申し向けたり、携帯していたドライバーを突きつけたりし、被告人が布で被害者に目隠しをして共同で同人の反抗を抑圧した後、ともども同人の着衣を剥ぎ取るなどして全裸にしました。ところが、その途中で同人が男性であることに気付いたので、両名ともこの機会を利用して斎藤から金品を奪おうと考えるに至り、共同して同人の両手、両足を手近の衣類で縛り上げて反抗を不能にしたうえ、机の引出しとバツクの中から同人所有の現金3000円位、腕時計、印鑑各一個及び預金通帳一通を奪ったというものです。

 

この点、東京高等裁判所昭和57年8月6日判決は、

 

「原判決は、被告人らが強姦の意思で被害者に対し加えた暴行、脅迫についても本件強盗罪の犯罪事実の一部として判示しており、これらもその手段となつたものと解していることが明らかであり、実際にも、右の暴行、脅迫は本件強盗罪の手段としての役割を果しており、被告人らもこれらの結果を利用して金品の奪取行為に及んだことが明らかである。そこで、このように最初強姦の犯意で暴行、脅迫に及んだ後、強盗の犯意を生じ、すでに行つた暴行、脅迫の結果を利用して金品を奪取した場合、これらを強盗罪の手段と認めてその罪の成立を肯定することができるか否かにつき考察するのに、強姦罪と強盗罪とは、目的、法益の点においては違いがあるものの、暴行、脅迫を手段として被害者の意思を制圧し、その意思に処分を委ねられた法益である貞操又は金品を奪うという点においては共通しており、犯罪構成要件の重要な部分である暴行、脅迫の点で重なり合いがあるのであるから、強姦の犯意で暴行、脅迫に及んで抗拒不能とした後、強盗の犯意に変り、それまでの暴行、脅迫の結果を利用して金品奪取の目的を遂げた場合には、右の暴行、脅迫をそのまま強盗の手段である暴行、脅迫と解してさしつかえがなく、したがつて、たとい強盗の犯意に基づく新たな暴行、脅迫を加えていないときでも、強盗罪の成立を肯定するのが相当であつて、暴行、脅迫を行つた際の具体的な犯意が異なるからといつて強盗の故意がなかつたとして強盗罪の成立を否定するのは相当でない。所論は、刑法一七八条が抗拒不能に乗じて姦淫した場合につき同法一七七条の強姦罪と区別して特別に準強姦罪として処罰していることを援用し、強盗罪にはこれに対応する規定が欠けているのであるから、抗拒不能に乗じて金品を奪取した場合であつても強盗罪の成立を肯定することは許されないと主張している。しかしながら、強盗の犯意で暴行、脅迫に及んだ後、強姦の犯意を生じ、それまでの暴行、脅迫の結果を利用して強姦の目的を遂げた場合には、たといその暴行、脅迫により未だ抗拒不能の状態には陥つておらず著しく抗拒が困難な状態となつたにとどまるときでも、当然刑法二四一条の強盗強姦罪が成立するものというべきであり、かりに刑法二四一条が置かれていないとすれば、刑法一七八条の準強姦罪ではなく刑法一七七条の強姦罪が成立するものと解されるのであるから、右の所論は適切とはいえない。結局、本件強盗罪においては、当初被告人らが強姦の犯意で被害者に加えた暴行、脅迫もその手段の一部であつたと認めるのが相当であるから、この意味においても論旨は排斥を免れない。」

 

とし、前回ご紹介した判例同様、暴行後の領得の意思が生じた際、新たな暴行脅迫は不要との見解のもと、強盗罪の成立を認めました。

 

やはり、強姦の場合には、判例は、その後領得の意思が生じた場合、暴行脅迫を不要とし、強盗罪の成立を認める方向にあるといえます。

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