所有権留保付き物件の持ち去り

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弁護士の佐藤です。

 

あっという間の金曜日です。

 

さて、本日も刑法に関する判例のうち、窃盗罪の成否が問題となった判例をご紹介したいと思います。

本日は、窃盗罪の保護法益から窃盗罪は否定された事例です。

事案としては、被告人は被害者に冷暖房機15台、冷蔵庫4台を所有権留保付き売買により売却し、納入したが、被害者が代金の一部を支払ったのみで弁済の誠意が見られなかったため、納入した物件中ほぼ未払額に見合う冷暖房機11台、冷蔵庫2台を持ち帰ったというものです。

 

この点に関し、昭和42年6月30日付東京地方裁判所判決は、

 

「被告人らの本件所為が外形的に窃盗罪の構成要件に該当することは明らかである。しかし、本件物件の所有権はすでにみたとおり、日本冷暖房に留保されていたのであるから、被告人らの行為は刑法二四二条にいう他人ノ占有スル自己ノ物を窃取した場合に該る。そして、『他人ノ占有』は従来権原による占有であるとされてきた(たとえば大審院判決大正七年九月二五日刑録二四輯一二一九頁)が、最高裁判所は昭和三四年八月二八日の判決(刑集一三巻一〇号二九〇六頁)において、刑法における財物取得罪の規定は、人の財物に対する事実上の所持を保護しようとするものであつて、その所持者が法律上正当にこれを所持する権限を有するかどうかを問わず物の所持という事実上の状態それ自体が独立の法益として保護され、みだりに不正の手段によつて侵害するを許さないとする法意である旨判示したそれ以前に示した最高裁判所の判例(昭和二四年二月一五日集三巻二号一七五頁、昭和二五年四月一一日集四巻四号五二八頁)の見解を支持し、前記大審院判例を変更した。  したがつて、右判例によれば、黄色合同は、本件物件について物の所持という事実上の状態を保持していることは否定できないのである。したがつて、被告人らに不法領得の意思があつたとする検察官の主張は一概に否定できないところである。また、・・・・が本件物件の撒去を認めたからといつて、・・は、・・の内妻たるに止まり、黄色合同についてはなんらの権限もないことが明らかであるから右・・が止むを得ないとして撒去を認めたことが真意に出た承諾であつたとしても、本件行為の違法性を阻却するに足りる被害者の承諾ということはできない。さらに、右承諾は自発的になされたものというより、弁済の遅延ということがあつたため、被告人らの要求を拒否することができなかつたためになされたもので、止むを得ず拒否しなかつたというものであるから、この点からみても、違法阻却事由となる被害者の承諾ということはできない。そうであれば、被告人らの行為に被害者の承諾がなかつたとする検察官の主張は理由がある。」

としながらも、本件犯罪の成否に関しては、

 

「すでに認定した本件物件撒去の経過から考えると、被告人らの行為は、外形的には刑法二三五条、二四二条に該当し、被害者の承諾も欠いているのではあるけれども、また、自救行為として認められる範囲を逸脱していることも否定できないのではあるが、東京地方裁判所の・・・・に対する判決書謄本にみられるように被害者・・・は過去に、詐欺等の犯罪を犯してその一審で有罪の判決を受け、本件弁済についても誠意を示さず、むしろ、当初から確実な代金弁済の能力を欠き、その意思をもたなかつたものとも認められる本件では、その故に直ちに窃盗罪の成立が認められるということにはならない。」

とし、さらに、

「たとえば、友人に書物を貸与し、相当期限を経過した後、必要に迫られ、その返還を求めて借主たる友人の家を尋ねたところ、その友人が不在であり、留守をしていた家人に事情を告げて貸与してあつた自己の書物を持ち帰つた場合、形式的には刑法二三五条、二四二条に該当することになるのであるが、正当な被害者の承諾がないからといつて、このような場合に窃盗罪の成立を認めるというが如きことは考えられないのである。この場合においては、一般に、被害者の承諾が推定されるという理由づけがなされるのであるが、むしろ右のような行為は、その手段方法において、特段に非難すべき点はなく一般に許容される範囲に属し、社会的に相当な行為として構成要件該当性あるいは違法性が阻却され、犯罪の成立がないものと考えることが、国民一般の法感情に合致するところであるといわなければならない。」

 

としました。

 

そして、本件については、

「これを本件についてみると、・・・は、自ら約定した債務の履行を怠つて、本件物件の代金を期日に完済しておらず、所有権も取得しない状態であつて、被告人らから契約を解除されたとしても、これを排斤すべき特段の抗弁を持たず、もし、被告人らが本件物件を撤去に赴いた際、その場に居合わせたとしても、これを拒否するに足りる正当な理由はないのであつて客観的には被害者の承諾が予想される場合でもあり、一方被告人らは、・・・が留守であつたとはいえ、同会社に居住していた被害者・・の内妻・・に来意を告げて諒解を求め、現実の担当者である・・には電話で、代金の支払いがあるまで預る旨話しているほか、被告人らの本件物件撒去の真意は、弁済があれば直ちに再び本件物件の取付を行うというのであつて、現に、当日午後四時半ごろまで従業員を残して、その準備をし、待機していたものである。そして、右のような事情のもとになされた被告人らの行為は、前設例の場合とはやや赴きが異るとはいえ、客観的には被害者の承諾が予想される場合であり、また被害者自身の承諾を欠いたとしても無断で持ち去つたわけでもなく、手段方法において特に不法な点はないし、その行為目的も特に非難の対象となり得る程のものでもない。また、本件物件とすでに支払われた代金との対比その他の事情を考えても右の結論を左右するに足りる事実は見出し得ないのである。」

とし、最終的に、

「そうであつてみれば、被告人らの本件行為は社会的に相当な行為として構性要件該当性もしくは、違法性を欠き、犯罪が成立しないのであるから、罪とならないものとして刑事訴訟法三三六条により主文のとおり無罪の言渡しをする。」

 

とし、被告人を無罪としたました。

 

構成要件該当性と否定するのか、違法性を阻却するのかはひとまずおいとき、自力救済が原則的に禁止されている中、単純に、所有権留保されたものを持ち帰る行為は、窃盗罪にあたるものと考えられますが、本件では、特に推定的承諾が認められるという点が重要視されたものと考えられます。

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