慰謝料~相隣関係⑦~

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弁護士の佐藤です。

 

 

さて、本日も相隣関係の中でも、騒音に関する事案をみていきたいとおもうのですが、まず事案ですが、被告は、その工場において、プラスチック成型加工業を行なっているのですが、工場内の成型機、粉砕機、クーリングタワー等から発生する騒音、振動と、かけっぱなしのラジオから発生する騒音のため、近隣に住む原告ら及びその家族は肉体的、精神的に多大の悪影響を被るに至ったとして、被告に対し、損害賠償請求等を求めたものです。

 

 

この点に関し、大阪地裁昭和62年3月26日判決は、まず事実関係について、

 

 

「本件地域は、騒音規制法四条、振動規制法四条、大阪府公害防止条例二二条一項、同施行規則七条の適用において、工場等からの騒音に関して第二種区域、同じく振動に関して第一種地域とされており、その結果工場等から騒音、振動を発生させる者は、別表(一)記載の規制基準を順守しなければならないこととされている。」

 

とした上で、

 

「いま、これを前記認定の騒音、振動に当てはめてみると、騒音のうち前記(1)のガチャガチャガッタンないしガッチャンという衝撃音は、恒常的に右規制基準を超過し、前記(2)のバリバリガチャガチャという音も、発生する限り常に右規制基準を大幅に超過し、前記(3)の音は、音量により異なるが、大部分の騒音は日中午前八時から午後六時の間を除いて右規制基準を超過する。また、振動のうち前記(4)のドスーンという新堂は、最大限度の振動が発生する場合は常に右規制基準を超過し、通常のものも午後九時から翌日午前六時までの間は右規制基準を超過する。」

 

 

としました。そして、さらに、

 

「被告が発生させる騒音、振動が前記のとおり規制基準を超過しているため生野保健所は、別表(二)措置一覧表記載のとおり、昭和五九年一二月二〇日から昭和六一年八月九日にかけて、被告に対して改善の指示を繰り返し、その回数たるや実に一四回にまで及ぶに至ったが、被告は後記認定のとおり若干の対策を講じただけで、発生する騒音・振動は前記認定のとおり実質的に低減しなかった。そして生野保健所は、被告に対して、昭和六一年八月以降の段階においては、大阪市公害防止設備資金融資により防音対策を行なうよう指導しているが、被告はこれに消極的な意向を示し、結局右融資による防音対策はいまだ実施されていない。」

 

とし、また、

 

「被告の発生する前記騒音、振動により原告らの自宅においては、有騒音、振動が直接体感されるほか、原告らは家のきしみ、ふすま等の家具の共振などを通じても、肉体的、精神的な影響を被っており、その結果、原告相和においては、深夜多数回にわたり睡眠が断続され、睡眠不足、心悸亢進、精神の緊張等をきたしている。同原告は自宅において、相当の精度を要求される金型加工業を営んでいるが、右種々の影響のためその仕事にも支障がでている。原告須美においては、昭和五九年五月末から、右騒音・振動等による睡眠不足に悩まされ、同年六月一五日頃まで卵巣機能不全症、子宮不整出血の症状を、昭和六〇年六月一〇日から同年七月まで、さらに昭和六一年一月六日から同年二月一三日までは左眼漿液性虹彩炎の症状をそれぞれきたすに至った。ただし、右各症状はいずれも現在はおさまっている。その外原告らの家族にも、進学年令の子供が自宅で勉強することができない、病気にかかっても安静にしていられないなどの影響が現れている。」

 

 

などと認定して、被告の行為を違法としたのち、慰謝料については、

 

 

「原告らは、過去の損害賠償請求として、口頭弁論終結時に至るまでの全損害について賠償を請求しているものと解されるところ、以上の認定事実を総合勘案すれば、その損害額は原告ひとりあたり、金一二〇万円とするのが相当である。」

 

 

として、一人あたり120万円の慰謝料を認めました。

 

 

そして、上記判決の珍しいところは、上記慰謝料が過去分の慰謝料であり、さらに、将来の慰謝料について、

 

「近い将来において、被告が工場を移転し、あるいは防音防振対策をとる等のことは予見されず、したがって原告らの被害の発生の継続が高度の蓋然性をもって予想され、一方原告らの被害は重大なもので、また紛争の全経過に照らし被害が右被害の継続する間任意に賠償金を支払うことは到底期待できないので、原告らにはあらかじめ将来の損害賠償を請求する利益があるものといわなければならない。」

 

とした上、

 

「そして、原告らは口頭弁論終結の日の翌日から、前記操業停止及び制限に至るまでの期間は、これを請求することができるといわなければならない。以上認定の事実によると、その期間中の損害額は少なくとも原告ひとりあたり一か月あたり金四万円を下らないものと認められる。」

 

 

と、将来の慰謝料をも認めました。

 

これはなかなか画期的なもので、大型の騒音の訴訟では、将来の慰謝料を否定しているものが多く、本件は実務上参考になる事案といえるのではないでしょうか。

 

 

というわけで、本日も相隣関係の関する判例をご紹介しました。

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