慰謝料~名誉毀損⑦~

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弁護士の佐藤です。

 

さて、本日も名誉毀損が問題となった判例をご紹介していきたいと思うのですが、本日ご紹介する事案を少々複雑です。

 

 

具体的には、原告と被告は、分譲マンションの6階と7階に居住する者で、上下の居住関係にあるのですが、被告は、平成元年ころからゴロゴロという騒音が階上から聞こえる旨訴えるようになったところ、被告は、騒音は原告のゴルフのパター練習音によるものではないかと考え、深夜原告方を訪れて問いただしたものの、原告が、その場で実際にゴルフ練習機を使用したところ、被告もこの騒音ではない旨納得しました。ところが、被告は、その後も3年間にわたり、管理組合の総会でこの騒音を問題とし、管理組合では、騒音を出さないよう注意する旨の文書を全戸に配布したのですが、被告は、騒音がなお発生しているとして、管理組合の総会において、騒音防止のため善処を求めた他、理事会では、騒音発生源として原告の氏名を具体的にあげたところ、原告は、被告の総会等における発言は、一般人なら原告を指すものであることが判るから、原告の名誉を毀損するとして、被告に対し、管理事務所脇の掲示板に謝罪広告を掲示すること及び損害賠償を求める裁判を起こしたというものです。

 

 

この点に関し、東京地裁平成9年4月17日判決は、まず、名誉毀損の有無について、

 

 

「原告が被告の主張するような騒音を発生させた事実は、いまだ認めることができない。それにもかかわらず、被告は三年間にわたり、合計三回の管理組合の総会において、階上からの騒音を問題とし、しかもその際、騒音の発生源は原告方であることを示唆する発言を行い、また理事会では、具体的に原告の名をあげて、原告が騒音を発生させていることを明言してきたものである。本件マンションのような集合住宅においては、他の居住者の迷惑となる行為をしないこと、とりわけ階下その他周辺居住者の生活の平穏を害する騒音を発生させないことは、いわば居住者として当曲に守るべき最低限のルールである。ところが、前記認定の被告の発言は、これを聞く者に対し、原告が税理士という地位にあり、しかも管理組合によって夜間の生活騒音を防止するよう要請していたにもかかわらず、こうした最低限のルールすら守ろうとしない自己中心的かつ規範意識のない人物であるかのような印象を与えるものである。」

 

 

として、原告の社会的評価を低下させるものであることを認定した上、管理組合や理事会等は、公然性がないのではないかという争点に対し、

 

 

「被告の発言は、その前後の供述内容と総合すれば、少なくとも本件マンション居住者にとっては、騒音発生源について明言していなくとも、これが原告方を指すものであることが容易に推測できるものである。少なくとも平成五年当時には、本件マンションの居住者の相当数が、被告がゴルフの練習によって発生したと考えられる騒音による被害を訴えており、しかも、被告方の階上に当たる原告方がその発生源と考えられることを認識しているものと認められる。また、管理組合の総会における被告の発言は、まさに居住者全員が出席しようと思えば出席できる場において行われたものとして公然性を肯定することができ、実際に総会に出席した居住者の多寡により結論が左右されるものではない。さらに、証拠(〈省略〉)によれば、理事会には、管理組合の理事のほか、本件マンションの管理会社である株式会社三越ビルサービスの担当者数名及び本件マンションの管理人らも出席しており、被告自身原告の名前を具体的に示したことを認める平成五年六月二六日には、A理事長のほか、理事四名、B前理事長、右三越ビルサービスの担当者二名及び管理人二名が出席していたことが認められる。これによれば、理事会の場における発言についても公然性を認めることができる。」

 

として、公然性の要件も認めました。

 

 

そして、結論として、

 

 

「被告による発言の内容、発言の期間、発言の行われた機会、原告の地位、当時者双方の事情、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、原告が右名誉毀損により受けた精神的苦痛を慰謝するための金額は、五〇万円をもって相当であると認める。」

 

 

として、50万円の限りで慰謝料を認めております。

 

 

近隣の騒音の問題は実務上もよく受ける相談で、双方感情的になることが多く、本件のような組合の会議の中での発言の名誉毀損の有無が問題となることも少なくないのかもしれませんが、私の経験上、裁判まで行くことはあまりなく、参考になる判例といえます。

 

 

というわけで、本日も名誉毀損に関する判例のご紹介でございました。

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