慰謝料~名誉毀損⑥~

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弁護士の佐藤です。

 

 

どんよりした天気です。

 

 

さて、本日も名誉毀損に関する判例をご紹介していきたいと思うのですが、本日の事案は。原告が被告発行の新聞紙上に掲載された記事で名誉を毀損されたとして、不法行為に基づく慰謝料を請求したもので、その記事は、新聞朝刊に、「中町の男性嫌疑なし」「大阪区検が不起訴」の見出しで、「大阪区検は二六日までに、大阪・西成署から窃盗容疑で指名手配され今年五月末、多可郡中町の実家にいたところを西脇署員に逮捕された〇〇〇〇さん(三〇)を不起訴処分にした。〇〇さんは、大阪市内の民家に忍び込み、携帯電話を盗んだとして手配されたが、電話の持ち主が顔見知りで「貸す話もしたようだ」としたため、嫌疑なしとなった。」との内容でした。

 

 

この点に関し、神戸地裁平成8年7月18日判決は、上記記事に名誉毀損を認めた上で、

 

 

「名誉毀損については、当該行為が公共の利害に関する事実にかかり、もっぱら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は違法性がなく、また、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、いずれの場合も不法行為は成立しないものと解される」

 

 

との一般論を展開したのち、

 

「本件記事は、その見出し部分に『指名手配の窃盗男逮捕』と記載され、原告が窃盗を犯したことを断定するような表現部分もあるが、その本文に記載されたところは、『民家に忍び込んで』の部分を除いては、概ね右被疑事実の要旨の事実で原告が逮捕された旨の内容のものであり、その限りで真実のものと認められる。」

 

とした上で、

 

 

「しかしながら、本件記事のうち原告が『民家に忍び込ん』だとの部分は、西脇署の発表にはなく、逮捕状記載の被疑事実にもないものである。そして、右『民家に忍び込んで』という部分は、その読者に対して住居侵入行為があったかのように印象づける表現であることは明らかであるところ、この事実については真実であることの証明はなく、被告において原告が右被疑事実の被害者方に忍び込んだ事実があったと信ずるにつき相当の理由があったものと認めるべき証拠もない。」

 

としました。

 

 

そして、

 

 

「住居侵入は窃盗の手段的犯罪(牽連犯)ではあるが、窃盗とは別の犯罪であることはいうまでもないところであり、単なる窃盗罪と住居侵入罪を伴う窃盗罪とでは罪状が異なるものとして評価されるのが一般であるから、本件記事にかかる事実は西脇署発表の被疑事実の範囲内のものとはいい難い。」

 

として、  

 

「したがつて、本件記事は、『調べによると』と前置きしてあたかも西脇署の捜査の結果であるかのように記載して、原告が西脇署の発表した事実になり犯罪事実(住居侵入)をも犯した容疑で逮捕されたかのように読者に印象づける内容のものというべきであるところ、右のような前置きをして個人の犯罪事実(被疑事実)に関わる事実を新聞記事として掲載する場合には、個人の名誉と信用を害することを考慮して、当該警察署の発表としてなされた事実の範囲内に止めるべきであり、右発表事実を誇張したり自己の憶測または確実でない情報等を付け加えることは許されないというべきである。」

 

とし、最終的に、

「しかるに、被告の本件記事の新聞掲載の経緯は前記認定のとおりであり、被告は西脇署の発表にない『民家に忍び込ん』だとする事実を含む本件記事を掲載したものであって(被告において右事実が存在するものと考えてもやむを得ないといえるような合理的事情は何ら存在しなかったといわざるを得ない。)、被告の右記事掲載行為には過失があり、右被告の行為は不法行為を構成するものというべきである。」

 

と結論づけました。

 

 

そして、最終的に、慰謝料の額については、

 

 

「右認定の被告の不法行為の内容、本件記事のうち原告が逮捕被疑事実の被害者宅に『忍び込んだ』とする部分以外については真実性の証明ないしそれが真実と信ずるにつき相当の理由があったと認められること、被告は、本件記事の掲載後、捜査の結果原告については本件記事に記載された全体の行為につき嫌疑なしとして不起訴処分がなされた旨の記事を新聞紙(本件記事を掲載した新聞紙)上に掲載して報道し、そのことを原告に通知したこと(前記第二、一3)、その他記録に顕れた諸般の事情を総合しん酌すれば、被告の不法行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は五万円をもって相当と認める。」

 

 

として、5万円の限りで慰謝料を認めました。

 

 

ささいなことかもしれませんが、忍び込んだという行為が新たな犯罪行為となる以上、事実と異なる記事に名誉毀損が認めた点は、注目すべき判例といえるのではないでしょうか。

 

 

なお、慰謝料とともに求めた謝罪広告については、

 

「被告が本件記事の掲載後、捜査の結果原告が本件記事全体の行為につき嫌疑なしとされた旨の記事を、本件記事を掲載した新聞紙上に掲載して報道したことは前記認定のとおりであり、その記事の内容に照らして、右記事の新聞掲載により原告の外部的名誉と信用の回復措置は一応とられたものと考えられ、それ以上に原告の名誉回復措置として原告の請求にかかる謝罪広告の必要性があるものとは認め難い。」

 

として退けております。

 

 

というわけで、本日も名誉毀損に関する判例のご紹介でございました。

 

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