建造物等損壊罪

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弁護士の佐藤です。

 

いつのまにか今週も始まっておりました。

 

連日、雨です・・・。

 

本日は、静岡地裁と清水簡裁の2件で、第1回口頭弁論があります。第1回口頭弁論があると、また新たな事件が動き出すわけで、あらためて気合いが入る日となります。

 

さて、本日も刑法に関する判例をご紹介しますが、本日は建造物等損壊罪についてです。

 

刑法260条は、

 

他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

 

としています。

 

そして、本日ご紹介する判例の事案は、被告人所有の建物につき根抵当権の設定を受けた甲が抵当権実行の結果自らこれを競落して、同人に対する所有権移転登記が経由された後、執行官が右建物につき不動産引渡命令の執行をしようとした際、被告人が同建物の損壊に及んだというもので、争点は、この建物が上記条文の「他人の」の建造物にあたるかという問題です。

 

この点に関し、最高裁判所昭和61年7月18日判決は、

 

「所論は、被告人が損壊した本件建物は刑法二六〇条の『他人ノ』建造物には当たらない旨主張するものであり、この点について、一、二審判決が判断を異にしているので、検討する。まず、被告人が昭和五〇年五月一〇日長崎県漁業協同組合連合会(以下『県漁連』という。)の職員二名と自ら交渉した結果、県漁連に対するあわびの売買代金債務の担保のため、被告人所有の本件建物に根抵当権を設定することを承諾し、同月一三日本件建物に県漁連を根抵当権者とする根抵当権設定登記が経由されたこと、その後、県漁連が長崎地方裁判所壱岐支部に対し、本件建物の任意競売(民事執行法附則二条による廃止前の競売法に基づく。)の申立をし、同競売手続において、県漁連が最高価の競買申出をしたため競落許可決定を受け、その代価を同支部に支払い、昭和五五年一月四日本件建物につき、右競落を登記原因とし、所有者を県漁連とする所有権移転登記が経由されたこと、同年三月一二日同支部執行官が先に発せられた本件建物等についての不動産引渡命令の執行のため本件建物に臨んだ際、被告人が本件建物を損壊する所為に及び、更に、執行官が立ち去つた後も同様の所為を続けたこと、以上の事実は、一、二審判決がともに認定するところであり、所論も争つていない。また、本件当日被告人が執行官に対し『今すぐ出てくれと言われても困る。今年の一〇月まで待つてくれ』と申し入れたことは、原判決が認定するところであり、記録に照らし、右認定は是認することができる。ところで、被告人は、本件建物に対する根抵当権設定の意思表示は、県漁連職員が根抵当権の設定は形式だけにすぎず、その実行はありえないかのような言辞を用いたため、その旨誤信してなしたものであり、本件損壊以前にその取消の意思表示をしたから、本件建物の所有権は本件損壊当時も依然として被告人にあつた旨主張しているところ、第一審判決は、被告人の主張するような詐欺が成立する可能性を否定し去ることはできず、その主張にかかる取消の意思表示をした事実も認められるから、本件損壊当時本件建物が刑法二六〇条の『他人ノ』建造物であつたことについて合理的な疑いを容れない程度に証明があつたとはいえない旨判断し、被告人を無罪とした。これに対し、原判決は、被告人の本件建物に対する根抵当権設定の意思表示は県漁連側の詐欺によるものではなく、本件損壊当時本件建物は県漁連の所有であつたと認められる旨詳細に説示して第一審判決を破棄したうえ、建造物損壊罪の成立を認め、被告人を懲役六月、執行猶予二年に処した。所論は、要するに詐欺の成立を否定した原判決は事実を誤認したものであり、第一審判決が正当であるというのである。しかしながら、刑法二六〇条の『他人ノ』建造物というためには、他人の所有権が将来民事訴訟等において否定される可能性がないということまでは要しないものと解するのが相当であり、前記のような本件の事実関係にかんがみると、たとえ第一審判決が指摘するように詐欺が成立する可能性を否定し去ることができないとしても、本件建物は刑法二六〇条の『他人ノ』建造物に当たるというべきである。」

 

として建造物等損壊罪の成立を認めました。

 

 

この問題は、民法上の詐欺の成否が関係する論点であり、実際、一審判決は、詐欺の成立する可能性を否定し去ることはできず、本件当時本件建物が「他人ノ」の建造物であったことについて合理的な疑いを容れない程度に証明があったとはいえない旨判断し、被告人を無罪としましたが、これに対し、控訴審は、詐欺の成立を否定し、本件建物は県漁連の所有であったと認められる旨判断して一審判決を破棄し、有罪としました。

 

これに対し、最高裁は、他人の所有権が将来民事訴訟等において否定される可能性がないということまでは要しないものと解するのが相当であ(る)」と判示し、建造物損壊罪の建造物の他人性につきある程度民事法から離れた解釈をする余地があることを明らかにしたものといえます。

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