帆足計事件

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弁護士の佐藤です。

 

さて、本日は、憲法22条のうち、居住・移転の自由に関する判例をご紹介します。

 

憲法22条は、職業選択の自由とともに、居住・移転の自由も保障しています。

 

居住・移転の自由は、それが制限されていた封建時代から、それが確立した近代社会に移行してはじめて資本主義経済の基礎歴条件が整うことになったという歴史的背景に基づくもですが、現在では、自由権の基礎ともいうべき人身の自由とも密接に関連し、また現在社会では、広く知的な接触の機会をえるためにもこの自由が不可欠であるところから、この自由は、精神的自由の要素もあわせもっていると考えられています。

 

次に、憲法22条2項は、

 

何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

 

と規定しており、この規定には、海外渡航の自由も含まれていると考えるのが通説です。

 

そして、本日ご紹介する判例が、これもまた古いのですが、帆足計事件と呼ばれるもので、1952年2月、元参議院議員である帆足計がモスクワで開催される国民経済会議に出席するためにの旅券を請求したところ、外務大臣がその発給を拒否したという事案です。

 

最高裁昭和33年1月22日判決は、

 

「憲法二二条二項の「外国に移住する自由」には外国へ一時旅行する自由をも含むものと解すべきである」

 

としたものの、

 

「外国旅行の自由といえども無制限のままに許されるものではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服するものと解すべきである。そして旅券発給を拒否することができる場合として、旅券法一三条一項五号が『著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足りる相当の理由がある者』と規定したのは、外国旅行の自由に対し、公共の福祉のために合理的な制限を定めたものとみることができ、所論のごとく右規定が漠然たる基準を示す無効のものであるということはできない。」

 

として、公共の福祉という非常にあっさりした理屈で合憲の判断をしました。

 

そして、さらに、上告人の、「本件の旅券発給申請は、同条に該らないに拘らず、原判決が同条を適用してその発給を拒否した外務大臣の処分を適法であると認めたのは同条の解釈適用を誤つた違法がある。又本件拒否処分は国家賠償法一条一項にいう故意過失があつたものとはいえない旨の判示も同条の解釈を誤つた違法がある」との主張にたいしては、

 

「とくに占領治下我国の当面する国際情勢の下においては、上告人等がモスコー国際経済会議に参加することは、著しくかつ直接に日本国の利益又は公安を害する虞れがあるものと判断して、旅券の発給を拒否した外務大臣の処分は、これを違法ということはできない旨判示した原判決の判断は当裁判所においてもこれを肯認することができる。」

 

とし、

 

さらには、

 

「たとえ個人の資格において参加するものであつても、当時その参加が国際関係に影響を及ぼす虞れのあるものであつたことは原判決の趣旨とするところであつて、その判断も正当である。その他所論は、原判決の事実認定を非難し、かつ原判決の判断と反対の見地に立つて原判決を非難するに帰し、いずれも採るを得ない。次に原判決が、本件拒否処分につき外務大臣の判断の結果が、かりに誤りであつたとしても国家賠償法一条一項にいう故意又は過失はない旨を判示したのは、本来必要のない仮定的理由を附加したにとどまるものであつて、その判断の当否は判決の結果に影響を及ぼすものではない。この点の所論も採用することはできない。」

 

としました。

 

戦後間もない混乱した時代に生きたことがないのでなんともいえませんが、先ほど述べたように、海外渡航が精神的自由権と密接に関連する以上、その合憲性判断は厳しくあるべきだと思いますし、外務大臣に広い裁量を認めている規定は、納得しがたいものがありますね。

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