安否を憂慮する者

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弁護士の佐藤です。

先日、関東弁護士連合会の会議で東京にいっておりました。

その会議で、私が横浜修習時代に裁判所でお世話になった裁判官が、その後裁判官を退官し、弁護士として同じ会議に出席されておりました。

感慨深い会議でした。

 

さて、本日も刑法に関する判例のうち、誘拐罪に関する判例をご紹介しますが、本日の判例は、「安否を憂慮する者」という要件が問題となった判例です。

先日もお話ししましたが、刑法225条の2は、

  1. 近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
  2. 人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、前項と同様とする。

と規定し、安否を憂慮する者の要件をくわえ、法定刑を重くしているわけです。

 

そして、事案は、被告人がは、〇〇株式会社(社長A)経営のパチンコ店の店長をしていたところ、覚せい剤常用等素行不良のため、解雇されたのであるが、Aの弟であるB経営のパチンコ店等で経理事務員をしていたCも、被告人母の内縁の夫であるという理由で、被告人が解雇された前日に、退職を迫られました。そこで、被告人はABらに恨みを抱くようになり、C方で徒食中、Cがパチンコ店の脱税資料(帳簿)を所持していることを知り、Aの脱税を暴露するかのように装つて、帳簿を買取らせようと考え、A及び同人経営のパチンコ店の管理責任者であるとともに同人が社長をしている株式会社「〇〇」(パチンコ店経営)の常務取締役であるDと面談して、暗に帳簿の買取方を要求したのですが、逆に、無条件の引渡を要求され、それに応じなければ、暴力団を使つて取り返す旨脅迫されたので、被告人は、昔のヤクザ仲間の加勢を得て、再度買取方を要求したところ、暴力団組長らによつて、その事務所に拉致されるなどされました。そこで、被告人は、意を決し、相被告人らと共謀のうえ、改造挙銃、手錠等を用意して、Aを略取のうえ、種々暴行を加えて、Dに「店の有金と200万円の小切手を榎に渡してくれ。」と架電させ、更にBに「100万円作つてくれ」などと架電させ、その結果、Dから現金140万円及び額面200万円の小切手1通、同人を介して、Aから現金990万円及び額面1000万円の小切手1通の交付を受けたため、みのしろ金目的拐取、拐取者みのしろ金取得罪で起訴されたものです。

この点、大阪地方裁判所昭和51年10月25日判決は、

「昭和三九年法律一二四号により新設された本条は、犯人が被拐取者と特別な人間関係にある者の憂慮という、いわば通常抵抗不可能な窮状に乗じて財物を得ようとする犯人の心情にはいささかも同情すべきものがないから、この種の犯人を無期又は三年以上の懲役刑をもつて厳重に処罰する趣旨で制定されたものであることを考えるならば、『近親』ではない『其他被拐取者ノ安否ヲ憂慮スル者』とは、被拐取者との間の特別な人間関係が存在するため、被拐取者の生命、身体又は自由に対する危険を近親者と同程度に親身になつて心配する者、さらに詳言するならば、被拐取者の生命、身体又は自由に対する危険を回避するためにはいかなる財産犠牲をもいとわない、被拐取者の危険と財産的な犠牲をはかりにかけるまでもなく危険の回避を選択すると通常考えられる程度の特別な人間関係を指すものと解すべきにある。」

とし、

「したがつて、単に、被拐取者或いは近親者等の苦境に同情する心情から心配する者にすぎない者は、『被拐取者ノ安否ヲ憂慮スル者』には該当しない。」

 

としました。

そして、本件では、

「これを本件についてみるに、前掲関係証拠によると、・・(D)は、被拐取者である鄭容球が代表取締役をしている株式会社・・(パチンコ店「・・・」を営む)の常務取締役であるとともに、同人の個人営業であるパチンコ等店『・・・』の管理責任者の地位にあり、・・・(B)が代表取締役として、又営業主として全権限を掌握し、・・(D)は両会館における現場営業面の最高責任者として・・・(A)のいわば片腕的な立場にあり、この関係は十年余も継続し、互いに他を必要としていたことが認められるものの、所詮は互いに必要とする範囲で結合された人間関係であり、その中心は従業員と雇主という経済的利害に基づく結合関係にすぎず、現に、前掲証拠によると、松木は本件の被害者としての立場にあつたが、被告人榎の能力を惜しみ、その人柄を愛し、・・(A)が・・・(D)を退職のやむなきに至らしめたことについて・・(A)を非難し、パチンコ業界における従業員の地位が弱いことを主張したことなどから、本件後・・・と不仲になり、同人から本件犯行に加担したものである旨のあらぬ言辞を投げかけられて退職のやむなきに至つているものであり、到底前記法条にいう「被拐取者ノ安否ヲ憂慮スル者」とはいいがたい。」

 

として、Dは、安否を憂慮する者としない判断をしました。

 

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