嬰児に対する監禁罪の成否

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弁護士の佐藤です。

 

昨日が祝日だったこともあり、今週はいつも以上に早くやってきた金曜日でございます。

 

さて、本日も刑法に関する判例をみていきますが、本日から逮捕監禁罪についての判例をご紹介します。

逮捕監禁罪については、刑法220条に規定があり、刑法220条は、

不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

と規定しています。

 

そして、本日ご紹介する判例は、嬰児に対して監禁罪が成立するのかが問題となった判例です。

事案は、被告人が、女性宅に強盗に入り、包丁を突き付けて「金を出せ」と脅迫したものの、女性はその長男(当時1歳7か月)を残したまま屋外に逃走しました。被告人は、間もなく警察官により女性宅が包囲されたことを知るや、長男を人質にして逮捕を免れようと企て、警察官らに「近づくと子供を殺すぞ」と申し向けて外部との交通を遮断し、情勢宅6畳間において、歩き回る長男を手や足で押さえて同部屋の片隅にとどめておくようにするなどして午後6時30分頃から午後11時頃まで長男の脱出を不能にさせたというものです。

本件の被害者は長男ですが、1歳であるため、監禁されているという認識は当然ありません。その場合でも監禁罪が成立するのかが問題となったのです。

 

この点、京都地方裁判所昭和45年10月12日判決は、

「弁護人は、監禁罪は人の行動の自由を侵害する行為であるが、本件被害者は、本件犯行当時生後一年七月を経たばかりの幼児であつて、行動の自由の前提要件とされる行動の意思が認められないから、本件監禁罪の客体とはならない、と主張する。」

といいう弁護人の主張に対し、

「監禁罪は、身体、行動の自由を侵害することを内容とする犯罪であつて、その客体は自然人に限ら上るが、右の行動の自由は、その前提として、行動の意思ないし能力を有することを必要とし、その意思、能力のない者は、監禁罪の客体とはなりえないと解する説が有力にとなえられている。  たしかに、監禁罪がその法益とされている行動の自由は、自然人における任意に行動しうる者のみについて存在するものと解すべきであるから、全然任意的な行動をなしえない者、例えば、生後間もない嬰児の如きは監禁罪の客体となりえないことは多く異論のないところであろう。しかしながら、それが自然的、事実的意味において任意に行動しうる者である以上、その者が、たとえ法的に責任能力や行為能力はもちろん、幼児のような意志能力を欠如しているものである場合でも、なお、監禁罪の保護に値すべき客体となりうるものと解することが、立法の趣旨に適し合理的というべきである。」

 

とし、本件については、

「これを本件についてみるに、前掲各証拠を総合すると、被害者・・・・は、本件犯行当事、生後約一年七月を経たばかりの幼児であるから、法的にみて意思能力さえも有していなかつたものと推認しうるのであるが、自力で、任意に座敷を這いまわつたり、壁、窓等を支えにして立ち上が、歩きまわつたりすることができた事実は十分に認められるのである。されば、同児は、その当時、意思能力の有無とはかかわりなく、前記のように、自然的、事実的意味における任意的な歩行等をなしうる行動力を有していたものと認めるべきであるから、本件監禁罪の客体としての適格性を優にそなえていたものと解するのが相当である。そして、その際同児は、被告人の行為に対し、畏怖ないし嫌忌の情を示していたとは認められないけれども、同児が本件犯罪の被害意識を有していたか否なは、その犯罪の成立に毫も妨げとなるものではない。」

 

とし、監禁罪の成立を認めました。

逮捕監禁罪の保護法益をどのようにとらえるかによって、他の場合、例えば、熟睡している人に監禁罪が成立するかなど、様々な論点が存在する罪名といえます。

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