国税調査官に対する業務妨害罪の成否

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弁護士の佐藤です。

 

12月も半ばにさしかかってきて、大晦日にむけ、みなさん、バタバタしているのではないでしょうか。私もバタバタです・・・。

 

で、本日もはりきって判例のご紹介をしたいのですが、本日も業務妨害罪の成否が問題となった事案をご紹介します。

事案は、被告人3名を含む20数名が、国税調査官による税務調査の方法が違法、不当であるとして、税務署に抗議ないし是正方申入れを行うために赴いた際、折から別件の税務調査に出張しようとした国税調査官の乗った乗用車を取り囲んで坐り込み、種々怒号しながら車体の窓ガラスを叩くなどして、その出張を妨害したというものです。

本件の争点は、国税調査官の税務調査ないしそのための出張行為を、暴行・脅迫に至らない威力をもって妨害した場合に威力業務妨害罪が成立するかというものでした。

 

この点、京都地方裁判所昭和61年5月23日判決は、

「威力業務妨害罪の保護法益は、単に私人の経済的活動の自由に止まらず、広く人の社会的行動の自由をも含むと解すべきであり、公務もまたこれを行う公務員等にとつては、人がその社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務即ち『業務』に外ならないのであるから、公務であるというだけで『業務』から除外すべきいわれはないというべきである。しかし、公務は別に公務執行妨害罪によつて保護を受け、同罪が暴行、脅迫による場合のみを処罰の対象とし、暴行、脅迫に至らない威力等による場合を処罰の対象としていないことからすると、法は、警察官のように職務の性質上その執行を妨げる者を排除する実力を有する公務員に対する暴行、脅迫に至らない威力等による抵抗については、その公務員による実力排除をもつてすれば足り、刑罰を科するまでの必要はないとしたものと考え、右のような公務員の公務については、公務執行妨害罪による保護を受けるに止まり、威力業務妨害罪によつては、そのいう『業務』にあたらないとして保護されないと解する余地がある。これに対し、その職務の性質上、暴行、脅迫に至らない威力等による妨害を排除できる実力を有しない公務員等の公務については、なお威力業務妨害罪における『業務』にあたるとして同罪による保護を与える必要性があり、そう解するのが合理的である。そして、以上の理解は、昭和四一年一一月三〇日最高裁判所大法廷判決(刑集二〇巻九号一〇七六頁以下)、昭和五〇年三月二五日東京高等裁判所判決(刑裁月報七巻三号一六二頁以下)及び昭和五九年三月二九日同裁判所判決(刑裁月報一六巻三、四号一七一頁以下)が、権力的作用を伴う職務とそうでないものとを区別して、威力業務妨害罪における『業務』にあたるか否かを論じる趣旨にも合致するものと考えられる。」

とした上で、

「そこで、以上の観点から、本件国税調査官の税務調査のための出張行為が、威力業務妨害罪における『業務』にあたるか否かについて検討するに、国税調査官の税務調査は国家統治権に基づく行政作用の一としての租税賦課徴収権を実行するための公務にあたり、国税調査官には税務調査のための質問検査権が法定され(所得税法二三四条一項ほか)、質問検査を拒んだり妨げたりした者に対しては刑罰が科せられることにはなつている(同法二四二条八号ほか)けれども、国税調査官はその職務の性質上被調査者に対してはもちろん、それ以外の者の暴行、脅迫に至らない威力等による妨害を排除する実力を有しない公務員であるから、税務調査の職務は、威力業務妨害罪における『業務』にあたると解すベきであるし、ことに本件では税務調査のための出張行為自体を第三者らが妨害したことが問題となつているのであつて、これに対する妨害をもつて先の質問検査妨害罪にあたるとは解し難い(昭和四五年一二月二二日最高裁判所第三小法廷判決・刑集二四巻一三号一八一二頁以下参照、なお弁護人は、税務調査のための出張行為を税務調査と不可分一体のものと主張するが、その論拠として引用する昭和五三年六月二九日最高裁判所第一小法廷判決・刑集三二巻四号八一六頁以下は、性質上一体性ないし継続性を有するものと認められる電報局長及び次長の統轄的な職務に関するものであり、本件とは同列には論じられない。)ことからすると、この税務調査のための出張行為自体は、民間企業における出張業務と何ら別異に扱う理由もないことになるのであるから、威力業務妨害罪における『業務』にあたることは明らかであり、同罪による保護の対象になるものということができる。」

 

とし、本件では業務性を認めました。

 

前回、学説の対立があることをご紹介しましたが、本判例が、「国税調査官はその職務の性質上被調査者に対してはもちろん、それ以外の者の暴行、脅迫に至らない威力等による妨害を排除する実力を有しない公務員」という点を上げていることからすると、通説的立場にたつものとも思われ、注目に値する判例といえます。

 

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