同時傷害の特例の適用の可否

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弁護士の佐藤です。

 

今週もいつのまにかはじまっておりました。

 

で、風邪っぴきです・・・(涙)

 

さて、本日も刑法に関する判例をみていきたいとおもいますが、本日は、まず、条文のご紹介からはじめたいと思います。

刑法207条には、

2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。

と規定されています。

 

これは、同時傷害の特例といわれるもので、例えば、共犯関係ではないが、複数人で暴行を加え、傷害の結果が生じたにもかかわらず、誰のどの暴行でその傷害の結果を生じさせたかわからないという場合、通常であれば、行為と結果との間に因果関係が必要であるため、因果関係の立証ができない以上、誰も傷害罪が成立しないということになります。しかし、それではあまりにも理不尽であるため、刑事政策的に、共犯関係とすることで、因果関係を全員に認めるとしたのです。

 

そして、その同時傷害の特例の適用の可否が問題となった事案が、被告人Aが食堂内で被害者に暴行を加え、Aが帰ったのち、約40分後、被告人Bが別の理由から被害者を店外に引き出して暴行を加え、その結果、被害者が収容先の病院で数日後死亡したというものです。ここで、死亡の結果がAとBいずれの暴行によって生じたか不明でした。

 

この点、札幌高等裁判所昭和45年7月14日判決は、

「刑法二〇七条は、もともと数人によるけんか闘争などのように、外形的にはいわゆる共犯現象に類似しながら、実質的には共犯でなく、あるいは共犯の立証が困難な場合に、行為者を知ることができず又はその軽重を知ることができないというだけの理由で、生じた結果についての責任を行為者に負わせ得ないとすることの不合理等に着目し、刑事政策上の要請から刑法の個人責任の原則に譲歩を求め、一定の要件のもとに、共犯者でない者を共犯者と同一に扱うことにしたものである。したがって、右立法の趣旨からすれば、同条の適用を認め得るのは、原則として、(イ)数人による暴行が、同一場所で同時に行なわれたか、または、これと同一視し得るほど時間的、場所的に接着して行なわれた場合のように、行為の外形それ自体が、いわゆる共犯現象に強く類似する場合に限られ、かりに、(ロ)右各暴行間の時間的、場所的間隔がさらに広く、行為の外形面だけでは、いわゆる共犯現象とさして強度の類似性を有しない場合につき同条の適用を認め得るとしても、それは、右時間的、場所的間隔の程度、各犯行の態様、さらに暴行者相互間の関係等諸般の事情を総合し、右各暴行が社会通念上同一の機会に行なわれた一連の行為と認められ、共犯者でない各行為者に対し生じた結果についての責任を負わせても著しい不合理を生じない特段の事情の認められる場合であることを要すると解するのが相当である。」

とし、

本件においては、

 

「被告人・・の被害者・・に対する原判示第一の暴行と、被告人・・の同被害者に対する原判示第二の暴行は、いずれも原判示万福食堂の内部または同食堂前の路上で行なわれたものであつて、場所的にはきわめて近接した地点で行なわれているが、右第二の暴行は、第一の暴行が終了し、被告人大木が右食堂を立去つた後、ふたたび同店内に立ち戻りカウンター付近に酩酊して寝込んだ同被害者に対し、まつたく別個の原因に端を発して被告人・・によつて行なわれるに至つたものであつて、被告人・・の暴行終了後約四〇分の時間的経過があり、しかも、被告人両名は右食堂の客と主人という以外、何ら特別の関係がなく、互いに他方の暴行を現認してもいないというのであるから、右は、前記(イ)の場合(すなわち各暴行の時間的近接性がとくに強く、行為の外形それ自体が、いわゆる共犯現象に強く類似する場合)にあたらないことは明らかであるといわねばならず、他方、右暴行の時間的間隔の程度、各犯行の態様、暴行者相互の関係等いずれの面よりしても、共犯者でない両名に対し、生じた結果についての責任を負わせても著しい不合理を生じない特段の事由が存するとは認められないのであるから、前記(ロ)の場合にもあたらない。そうすると、被害者・・が被告人・・の暴行を受けた約三時間後に医師の診察を受け、内臓損傷の疑いがあつたので開腹手術を受けたが、すでに内蔵破裂に基づく胆汁の腹腔内への流入のため生命に危険のある状態であつて、結局、原判示第二の暴行の約七〇時間後に死亡したこと、被告人両名の暴行がいずれも右のような内臓損傷を生ぜしめる蓋然性が高く、右両名以外に被害者に右傷害を生ずるような暴行を加えた者があつたとは認められないこと等、所論指摘の諸点を考慮にいれても、本件につき刑法二〇七条の適用を否定した原判決はまことに正当であつて、原判決に同条の解釈、適用の誤があるとは認められない。論旨は理由がない。」

 

とし、本件では刑法207条の成立を否定しました。

 

致死の結果が生じているため、結果の責任を負わせたいという検察官の意向も理解できますが、やはり、個人責任の原則がやはり大原則であり、207条は例外規定といえるので、その範囲を広げることはリスクもあり、裁判所の判断は妥当といえるでしょう。

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