労働問題29~従業員の自殺と安全配慮義務~

001

弁護士の佐藤です。

本日も安全配慮義務にまつわるお話ですが、本日は、以前私が実際担当した従業員の自殺と安全配慮義務に関することです。

精神障害を理由として安全配慮義務に基づく損害賠償請求する事案の多くは、うつ病などの精神障害を経由して自殺した事案です。

上記事案で安全配慮義務が認められるためには、従事した業務とうつ病等の精神障害発生との間に相当因果関係があり、かつ、その精神障害と自殺との間に相当因果関係があること、自殺等の重大な結果に至ることの予見可能性と回避可能性があったこと、使用者・上司などが結果を回避する措置を講じなかったことについて過失が認められることが必要とされています。

この点に関しては、最高裁は、具体的な事案において、「1 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法六五条の三は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。

 2 一審被告のラジオ局ラジオ推進部に配属された後にBが従事した業務の内容は、主に、関係者との連絡、打合せ等と、企画書や資料等の起案、作成とから成っていたが、所定労働時間内は連絡、打合せ等の業務で占められ、所定労働時間の経過後にしか起案等を開始することができず、そのために長時間にわたる残業を行うことが常況となっていた。起案等の業務の遂行に関しては、時間の配分につきBにある程度の裁量の余地がなかったわけではないとみられるが、上司であるDらがBに対して業務遂行につき期限を遵守すべきことを強調していたとうかがわれることなどに照らすと、Bは、業務を所定の期限までに完了させるべきものとする一般的、包括的な業務上の指揮又は命令の下に当該業務の遂行に当たっていたため、右のように継続的に長時間にわたる残業を行わざるを得ない状態になっていたものと解される。ところで、一審被告においては、かねて従業員が長時間にわたり残業を行う状況があることが問題とされており、また、従業員の申告に係る残業時間が必ずしも実情に沿うものではないことが認識されていたところ、Dらは、遅くとも平成三年三月ころには、Bのした残業時間の申告が実情より相当に少ないものであり、Bが業務遂行のために徹夜まですることもある状態にあることを認識しており、Eは、同年七月ころには、Bの健康状態が悪化していることに気付いていたのである。それにもかかわらず、D及びEは、同年三月ころに、Dの指摘を受けたEが、Bに対し、業務は所定の期限までに遂行すべきことを前提として、帰宅してきちんと睡眠を取り、それで業務が終わらないのであれば翌朝早く出勤して行うようになどと指導したのみで、Bの業務の量等を適切に調整するための措置を採ることはなく、かえって、同年七月以降は、Bの業務の負担は従前よりも増加することとなった。その結果、Bは、心身共に疲労困ぱいした状態になり、それが誘因となって、遅くとも同年八月上旬ころにはうつ病にり患し、同月二七日、うつ病によるうつ状態が深まって、衝動的、突発的に自殺するに至ったというのである。
 <要旨1>原審は、右経過に加えて、うつ病の発症等に関する前記の知見を考慮し、Bの業務の遂行とそのうつ病り患による自殺との間には相当因果関係があるとした上、Bの上司であるD及びEには、Bが恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかったことにつき過失があるとして、一審被告の民法七一五条に基づく損害賠償責任を肯定したものであって、その判断は正当として是認することができる。」(最高裁平成12年3月24日判決)としました。

上記最高裁判例は、従業員の自殺と安全配慮義務違反における賠償責任について裁判所の考え方を確立したものですが、その後の裁判では、予見可能性について、従業員のうつ病発症の原因の認識予見でたりるのか、それ以上に、うつ病発症や自殺という結果の認識・予見可能性が必要なのかについては、多くの裁判で判断が分かれるところであり、非常に難しい立証活動が強いられています。

ところで、話が変わりますが、これまで労働問題について長々とお話してきましたが、労働問題については、とりあえず、本日で最後にして次回からは他のテーマでお話していこうかと思います。

ただ、労働問題も日々色々な判例がうまれ、新しい観点からの問題を発生しているので、参考になるような話があった随時またご報告させていただきます。

ページの先頭へ