労働問題21~業務起因性の事例について③~

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弁護士の佐藤です。

本日も業務起因性等の問題で実際の争われた判例等を参考にお話ししたいと思います。

業務と災害の相当因果関係が争われる事案で、しばしば争いになる争点は、労働者に精神疾患があった場合です。

この点に関し、判例は、貨幣処理機など精密機械の製造・販売・保守サービス等を業務とする会社に在職中自殺したAの妻である原告が,被告に対し,Aの自殺は業務によりうつ病に罹患したためであると主張して,労働者災害補償保険法に基づき,遺族補償年金及び葬祭料の支給を請求したが,平成9年8月27日付けでこれらをいずれも支給しない旨の処分(以下,一括して「本件処分」という。)を受けたことから,本件処分の取消しを求めた事案で、業務起因性の判断について、まず、「労基法79条,80条及び労災保険法7条1項にいう『労働者が業務上死亡した場合』、『働者の業務上の死亡』は、働者が業務に基づく負傷又は疾病(労基法75条参照)に起因して死亡した場合をいい、負傷又は疾病と業務との間には、相当因果関係のあることが必要であると解すべきである(最高裁判所第2小法廷昭和51年11月12日判決参照)。そして、労基法及び労災保険法による労働者災害補償制度は、業務に内在ないし随伴する各種の危険が現実化して労働者に傷病等をもたらした場合には、使用者等に過失がなくとも、その危険を負担して損失の填補の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものと解される。この制度趣旨に照らすと、業務と死亡との間に相当因果関係が肯定され、労災保険の補償の対象とされるためには、客観的に見て、すなわち通常の勤務に就くことが期待されている平均的な労働者を基準として業務自体に一定の危険性があることが大前提であり、これを前提とせず、単に当該労働者にとって危険であったかどうかを判断基準とすることは、上記制度趣旨を看過するもので採用し得ない。他方、労働者の中には、何らかの素因を有しながらも、特段の勤務軽減までを必要としないで通常の勤務に就いている者も少なからずいることから、上記の基準となるべき平均的労働者には、このような労働者も含めて考察すべきである(いいかえれば、上記の平均的労働者にとどまる限り、相対的に耐性の弱い者を念頭に置いて考察することとなる。)。そして、精神障害について業務起因性の有無を判断するにあたっても、上記のような基準により業務の危険性を判断すべきであり、その結果業務の危険性が肯定される場合は,業務外の危険すなわち当該労働者の私的領域に属する危険が存在し、かつそれが業務の危険性より有力な原因となったことがある程度明確に認められない限り、業務起因性を肯定すべきであり、単に当該労働者の病前性格が、仕事熱心、凝り性、強い義務感といったうつ病親和性性格ないし傾向にあることを個体側要因として考慮し、業務起因性を否定することは相当ではない。以上によれば,精神障害が発病した場合の相当因果関係の判断は、まず、当該労働者と同種の業務に従事し遂行することが許容できる程度の心身の健康状態を有する労働者(以下「平均的労働者」という。)を基準として、労働時間,仕事の質及び責任の程度等が過重であるために当該精神障害が発病させられ得る程度に強度の心理的負荷が加えられたと認められるかを判断し、これが認められる場合は、次いで、業務以外の心理的負荷や個体側要因の存否を検討し、これらが存在し、しかも業務よりもこれらが発病の原因であると認められる場合でなければ相当因果関係が肯定され、それ以外の場合は相当因果関係が否定されるという手法によるべきである。」という判断基準をもうけました。

その上で、本件では、上司の叱責が部下の労働者に対する通常の叱責の範囲を著しく超え、特に強い心理的負荷となるような内容あるいは態様のものであったとは認められず、死亡と業務のとの間に相当因果関係は認められないとしました(東京地裁平成15年2月12日判決)。

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