偽計業務妨害罪

004

弁護士の佐藤です。

 

さて、本日も刑法に関する判例のうち、業務妨害罪の成否が問題となった判例をご紹介しますが、前回、「威力」についてお話したのに対し、今回は「偽計」です。

本日ご紹介する事案は、被告人が、被害者の営業(中華そば店)を妨害する意図のもとに、約980回にわたり同人方に電話し、被害者が電話口に出てもその都度無言で終始する等の行為をくり返し、その間被害者方の電話の発着信を不能にして顧客からの電話による注文を妨げ、かつ被害者を心身ともに疲労させたというものです。

ここで、無言電話をかけることが偽計業務妨害罪の偽計にあたるかが問題となりました。

この点、昭和48年8月7日東京高等裁判所判決は、まず、

「刑法二三三条にいう偽計を用いるとは、所論のように欺罔行為により相手方を錯誤におちいらせる場合に限定されるものではなく、相手方の錯誤あるいは不知の状態を利用し、または社会生活上受容できる限度を越え不当に相手を困惑させるような手段術策を用いる場合をも含むものと解するのが相当である。」

と偽計の定義をしたうえで、

 

「本件についてこれをみるに、証拠によれば、被告人は石川寛一の営業(中華そば店)を妨害する意図のもとに原判示のように約九七〇回にわたり同人方に電話し、相手方が電話口に出てもその都度無言で終始し、相手方が送受話器を復旧しても自らの送受話器は約五分間ないし約三〇分間(稀には数時間の長きに及ぶこともあつた)復旧しないで放置することを繰り返し、その間右石川方の電話の発着信を不能にさせ、同店に対する顧客からの電話による出前注文を妨げ、かつ石川を心身ともに疲労させ、同人の業務を妨害したものであり、他方相手方の石川においては、被告人からの昼夜にわたる多数回の電話がその業業妨害の意図に基づくものであることを、当初は別として本件段階においてはすでに察知していたことが窺われるが、それにしても、電話の性質上受信べルが鳴ればべル自体では直ちに被告人からの電話であることを覚知しえないので、あるいは顧客その他の者からかかつてきたかも知れないとの懸念からこれに応ぜざるをえなかつたのであり、その結果昼夜を別たぬ度重なる無益な電話に困惑させられ、心身ともに疲労して、その営業にも支障を生じたものであることを認定することができる。」

とし、結論として、

「そして、右認定のように、被告人が相手方の業務を妨害する意図のもとに、約九七〇回にわたり昼夜を問わず繰り返し電話をかけ、その都度、相手方が或いは顧客等からの用件による電話かも知れないとの懸念から電話口に出ると、無言のまま相対し、または自己の送受話器を放置し、その間一時的にもせよ相手方の電話の発着信を不能ならしめた所為は、一面において、受信者である相手方の錯誤ないし不知の状態を利用するものであることを全く否定し得ないものがあると共に、他面において、その目的、態様、回数等に照らし、社会生活上受容できる限度を越え不当に相手方を困惑させる手段術策に当たるものというべく、これを総合的に考察すればまさに刑法二三三条にいわゆる偽計を用いた場合に該当するものと解するのが相当である。」

として、偽計業務妨害罪の成立を認めました。

なお、上記判例は、軽犯罪法によつてのみ処断されるべきであるとの主張に対し、

 

「同号にいう『他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した』とは偽計にもあたらない違法性の軽度のいたずらあるいはこれに類する些細な行為により他人の業務を妨害した場合をいうものと解されるところ、前段に説示したような被告人の原判示所為は右にいわゆる『いたずら、あるいはこれに類する些細な行為』と目し得る程度を遥かに越えるものであり、軽犯罪法の右規定をもつて律すべき場合にあたらないことは明らかであるから、所論は到底採用することができない。」

 

と、弁護人の主張を退けています。

行為内容からすれば当然といえるでしょう。

ページの先頭へ