ファイルの財物性

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弁護士の佐藤です。

なぜかまた風邪っぴきです(涙)

 

年末の忙しい時期にこたえますが、皆様もうがい、手洗い等で、十分に対策をとるようにしてください。

さて、これまで、刑法に関する判例は、業務妨害罪に関するものをみてきましたが、本日からもっともよく聞く罪名であろう、窃盗罪に関する判例をみていきたいと思います。

 

前提として、刑法235条は、

他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

と規定しています。

 

そして、本日ご紹介する判例は、窃盗罪の対象たる財物性が問題となったものです。

 

事案は、国立予防衛生研究所抗生物質製材室勤務の被告人が、とある会社の社員に渡してコピーさせるために、同室室長の専用戸棚からM社開発の新薬に関する資料等のファイルを取り出して窃取したというものです。

この点昭和59年6月28日東京地方裁判所判決は、情報ないし思想、観念等の化体された用紙などの媒体が刑法235条にいう財物に該当するか否かについて、

 

「弁護人主張のように情報と媒体を分離して判定するのは相当でない。けだし、媒体を離れた情報は客観性、存続性に劣り、情報の内容が高度・複雑であればあるほど、その価値は減弱している。媒体に化体されていてこそ情報は、管理可能であり、本来の価値を有しているといって過言ではない。情報の化体された媒体の財物性は、情報の切り離された媒体の素材だけについてではなく、情報と媒体が合体したものの全体について判断すべきであり、ただその財物としての価値は、主として媒体に化体された情報の価値に負うものということができる。そして、この価値は情報が権利者(正当に管理・利用できる者を含む。以下同様)において独占的・排他的に利用されることによって維持されることが多い。また、権利者において複製を許諾することにより、一層の価値を生み出すことも可能である。情報の化体された媒体は、こうした価値も内蔵しているものといえる。以上のことは、判示窃盗にかかる本件ファイルについても同様であって、本件ファイルは、判示医薬品に関する情報が媒体に化体され、これが編綴されたものとして、財物としての評価を受けるものといわなければならない。弁護人主張のような論拠で財物性を論ずることはできない。」

 

として、ファイルの財物性を認めました。

そして、窃盗罪の成立には、不法領得の意思、すなわち、権利者を排除し他人のものを自己の所有物と同様に(支配意思)、その経済的用法に従いこれを利用し又は処分する(用益意思)意思が必要であるところ、この点につき、

 

「次に、不法領得の意思の有無について検討する。まず、本件ファイルの財物としての価値は、前示のように情報が化体されているところにあるとともに、権利者以外の者の利用が排除されていることにより維持されているのであるから、複写という方法によりこの情報を他の媒体に転記・化体して、この媒体を手許に残すことは、原媒体ともいうべき本件ファイルそのものを窃かに権利者と共有し、ひいては自己の所有物とするのと同様の効果を挙げることができる。これは正に権利者でなければ許容されないことである。しかも、本件ファイルが権利者に返還されるとしても、同様のものが他に存在することにより、権利者の独占的・排他的利用は阻害され、本件ファイルの財物としての価値は大きく減耗するといわなければならない。」

としたうえ、

「このような視点に立って本件をみるに、所論引用の判例にもあるように、「窃盗罪の成立に必要な不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の財物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用又は処分する意思をいい、永久的にその物の経済的利益を保持する意思であることを必要としない」と解するのを相当とするところ、本件窃盗は、判示にもあるように、本件ファイルを複写して、これに化体された情報を自らのものとし、前示のような効果を狙う意図と目的のために持ち出したものであるから、これは正に被告人らにおいて、権利者を排除し、本件ファイルを自己の所有物と同様にその経済的用法に従い利用又は処分する意思であったと認められるのが相当である。」

として、結論として、

「そして、こうした意思で本件ファイルを持ち出すことは、たとえ複写後すみやかに返還し、その間の権利者の利用を妨げない意思であり、かつ物理的損耗を何ら伴わないものであっても、なお被告人両名及び鈴木らに不法領得の意思があったものと認めざるを得ない。」

 

とし、不法領得の意思を認めました。

窃盗罪の財物性は、たびたび判例で問題とされるところですが、本件のように情報が化体されたようなものでなくとも、裁判所は財産的価値の高低関係なく、広く財物性を認めているというのが私のこれまでの経験での印象です。

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